Scene is start...
月見夕菜が襲われた事件の処理がひと段落し、支部長室に呼ばれる3人。
目の前に座るのはUGN・H市支部長、阿東頼子。
穏やかで菩薩のような包容力のある彼女が、沈痛な面持ちで口を開く。
だが紡は、どこか遠くのことのようにぼうっと眺めている。
先程の出来事が頭の中に渦巻いていて、阿東の言葉が実感として伴っていないのだ。
|
阿東 |
「夕菜さん、といったかしら。彼女は今、私たちの所有する病院で治療を受けているわ。
容体はまだ分からない。
……でも、もう少ししたら手術は終わるはずよ」 |
ジーク |
しばらく沈黙を保ってから「そうか」と一言だけ返します。 |
紡 |
「……で、夕菜の様態が……?」 |
翔 |
おい紡、聞いてなかったのかよ……。 |
GM |
阿東は不思議そうな顔を浮かべて紡君を見、君のその様子もあってため息をついてしまいます。
ため息をひとつはいた後、机の引き出しから資料を取りだします。 |
阿東 |
「“ファタ・モルガーナ”
最近UGNで尻尾をつかんだ、ファルスハーツの放ったジャームよ。
今のところ判明しているのは、女の子の姿をしていること、強力なオルクス・シンドロームの使い手ということ。それと、何人かのグループで行動していることは確認されているわ。
でも、そう……まだ判っているのはそのくらい。
ですがこうなってしまった以上、我々は彼女をこの街に放置するわけにはいきません。
ジーク・夕姫、ファタ・モルガーナを探しだして、対処しなさい 」 |
ジーク |
「了解」 |
夕姫 |
「……」
無言で俯いています……。 |
阿東 |
「それから紡君、貴方には彼らとは別に話があるから、残って貰えるかしら?」
そういうと2人の方にちらり、目配せをします。 |
ジーク |
「判った。
夕姫、行こう」 |
夕姫 |
「はい」
ではついていきましょう。 |
カチャ――パタン。
|
紡 |
2人がいなくなってから暫くして「……あれ? 2人は?」 |
阿東 |
「あなた、ちょっとぼうっとしているけれど大丈夫?」 |
紡 |
それにも10秒ほど合間を開けてから「……話を、続けて」
“大丈夫”という言葉に対しても、認識外の状態。 |
GM |
阿東は困ったような表情を浮かべながら「話といっても、別に大したことではないのですが――」と、話し始めるます。
ですが、彼女が話すその言葉が、紡君には遠い遠い世界の言葉のように聞こえます。
君の頭の中には、陽炎を見た瞬間にフラッシュバックしたいくつもの記憶が渦巻いています。 |
『アレは、いつの記憶だったか――』
頭の中では幾つもの記憶が渦巻いて、現実と記憶がまぜこぜになる。
ふと、窓の外で桜の花びらが1枚、はらりと落ちる。
その瞬間――頭の中で何かが弾けた。
記憶の渦が濁流のようになっては紡の頭の中へと流れ込み、全てが思い出されていく。
白い壁、白い天井、白い家、鉄格子のはまる窓。
どこともわからないその場所に監禁される子供たち。繰り返される非道な実験。
翔・ジーク・夕姫・紡・朝海・時也。
6人の仲間たちと支え合いながら、共に強く生きていた過去。
そうだ、何故忘れていたのだろう?
自分たちは、はるか昔から仲間だったのに――
|
GM |
君はどこかにある白い家で、6人の子供たちと実験を受けていた過去があります。
そしてその実験を受けている過酷な中でありながらも、共に支え合って強く生きていた――その過去が全て蘇ります。
そして、これ以降はどういうことがあったのかは基本的にGM側では描写しません。
『こういうことがあったよな』とどんどんプレイヤー側で描写して構いません。
ここから先はあなたのロールです。 |
紡 |
うわ、ちょ、ちょっと待っ……?! |
GM |
きっとこの実験や状況の背景のこととかは紡君は知りません。
知りませんが、君が見たこと全て思い出して構いません。 |
フラッシュバックするように、紡の記憶が戻っていく。
その最中にも話していた阿東頼子、現実に戻れば彼女が語りかけているのに気付く。
「――紡君、君は協力してくれるかしら?」
|
紡 |
「え、と、あ……――協力?
何を協力すればいいの?」 |
阿東 |
「ジークや夕姫たちと共に、ファタ・モルガーナの撃破を手伝って欲しいの」 |
紡 |
うーん、と……。
「先約が、ある」 |
阿東 |
「先約?」 |
紡 |
「まだ、内容は聞いていないけれど、先に約束してしまった」 |
阿東 |
「そう、それじゃ仕方がありませんね。
でもその“先約”が終わったらよろしくね、紡君。
もちろん、そうはならないかもしれないけれど、期待しているわ」 |
紡 |
その言葉にはこくり、うなずく。
「ただ、いつになるかわからない。多分向こうの方が――」とここで言葉を切ります。
あぶない、翔のことを話しそうに……。 |
阿東 |
「そう、それとこの街にはFHのエージェントが潜入しているという情報も入ってきているの」 |
紡 |
ぎくり。
「情報はあるの?」 |
阿東 |
「いいえ、まだ潜入しているという情報だけ」 |
紡 |
「そ、それはまだ人数とかもわからないの、かな?」 |
阿東 |
「誰が入っていて、何人いるかという情報はまだ掴めていません」
目を伏せ、首を横に振った彼女はゆっくりと目を開き紡を見据える。
「ですが――これ以上彼らの好きにはさせられない。なんとしても彼らを止めなければなりません」
紡がれたその言葉には、確固たる意思が宿っている。 |
紡 |
「じゃあ、いつ協力出来るようになるかわからないから、情報をまた聞いても良いかな?」 |
阿東 |
「ええ、いつでも歓迎します。よろしくお願いいたします」 |
紡 |
その言葉にはこくり、うなずく。
「とりあえず、先約の方を優先するから」
そういうと、支部長室から出て行きます。 |
...Scene is end.
Scene is start...
UGNが保有する病院、その遺体安置室。
光も刺さぬ暗い部屋の中央で、月見夕菜は横たわっていた。
UGNの医師たちの必死の処置も間に合わず、彼女は息を引き取った。
彼女の身体にはまだぬくもりが残っている。だが――彼女はもう、動かない。
――フラッシュバック。
記憶。
遥か昔の記憶。
白い壁、白い床、白い天井。
「俺がお前を護る」
自分は確かに約束した。
そう、確かに約束した。
黒髪の少女が振り向く。
桜の花びら。白い服。白い天井。記憶の中で彼女は笑う。
彼女の名は――
|
GM |
フラッシュバックが途切れ、君は現実へと還ってくる――。 |
翔 |
「……」
フラッシュバックを視て、月見の方へと目を向ける。
彼女が安置されている場所へと近づいては、彼女に触れて血を掬う。
≪ブラッドリーディング≫の使用を宣言。 |
|
翔 |
コイツを使用すると結果、何が流れ込んできますかね? |
GM |
≪ブラッドリーディング≫で求めているシーンがあるなら僕に求めてください。
君が造るシーンなので、≪ブラッドリーディング≫の結果まで全て造って構いません。 |
翔 |
あー……。
要は俺は≪ブラッドリーディング≫で、月見が“まだ生きたかったのか”“このまま死んでも良かったか”の答えを知りたい。
あの状況と月見の性格を考えりゃ、その答えは正味分かっちゃいやするんだ、が……。 |
GM |
では、彼女の生きていた過去の記憶、その全てが濁流のように流れ込んできます。
これから彼女が夢見ていた将来の夢、未来に対する希望――そういったものが次々と押し寄せるように翔の中へと流れ込みます。 |
翔 |
「……」
流れ込んできたその記憶と想いを識り、しばらく沈黙しては悩み考える。
黙したまま≪無音の空間≫を放ってこの場から放たれる音と気配を断ってから、腕を切りその血を月見の口へと垂らす。
≪抱擁≫、月見を死から掬う。 |
GM |
彼女の口元に血を垂らすと、彼女の指がピクリ――動く。 |
どくん。
確かにそこにあったのは、止まった筈の小さな心臓。
それが震え、ゆっくりと静かに脈を打つ。
夕菜が息を吹き返した、それを示す命の脈動が無明の空間に小さく響く。
その瞬間――
「相変わらず自分勝手な奴だな、翔」
翔の後ろから、語りかけてくる声が聞こえてきた。
|
翔 |
「自分勝手なのが俺だからな」
振りかえらないままで言い放つ。 |
GM |
ふと気付くと、遺体安置室の入口に青年が立っています。 |
翔 |
それは相手を確認する為にも振り返るか。
「わざわざ殺す必要なんてねえだろ。
それに俺が起すことなんざ、テメェらなんざに関係ねえだろ」 |
GM |
相変わらず、って言われてますけど思いっきり初対面ですよ。
ナイト・パブで任務を請け負ったときに貰った標的の1人、写真の青年ではありますがね。 |
翔 |
それでも言う。何かわめいていると思われようが言う。 |
GM |
翔のその様子を見て、彼はちょっと楽しそうにふふっと笑います。 |
青年 |
「なあ、翔。
お前に頼みがあるんだ、聞いてくれるか」 |
翔 |
「話を聞くのは構わねえ。
だけど初対面の奴に頼まれごとをされて、ホイホイと請けるような義理はねえぞ」 |
GM |
それを聞くと青年は、一瞬動きを止めて目を丸くし、きょとんとした表情を浮かべます。
「そうか……覚えていないのか……。
……そうだよな……参ったな……そうか、でもそうなんだ、よな……」 |
翔 |
「……?」
青年の様子に不思議そうな顔を浮かべる。
「まあ、俺もアンタにゃ頼みたいことはあるんで。先にどうぞ」 |
GM |
しばらくの沈黙の後、青年は翔が覚えていないことを感覚として判りながらも、それでも縋るようにして言葉を紡ぎ始めます。
「彼女を――朝海を止めてくれ、あいつは狂ってる。
あいつは全てを許さないだろう……俺もお前も、あいつらも」 |
翔 |
しばらくの間沈黙を保ち、考える。
その後に「まさか、アサミって“ファタ・モルガーナ”っていわないか?」と問いかける。 |
GM |
それには沈黙で返します。 |
翔 |
「……まあ、わかった。じゃあこっちからだ。
白い女――ファタ・モルガーナを探している。出来れば顔つなぎをしたい」 |
青年 |
「……」 |
GM |
翔の言葉を、青年は全て沈黙で返します。
静寂がある程度の時を支配し続けたのち、ぽつり、呟きます。
「――本当に、覚えていないのか?」 |
翔 |
「……」 |
青年 |
「そうか、わかった。
すまない、今のことは忘れてくれ」 |
翔 |
「……」
沈黙で返す。 |
GM |
では彼は、この場を去ろうとします。 |
翔 |
俺は止めない。 |
GM |
去り際、彼はドアのところで立ち止まる。
背中越しに翔へと「――なあ、あの時のしおり、まだ持っているか?」と静かに問いかけてきます。 |
翔 |
口を閉ざしたまま沈黙を保つ。
そもそも“あの時のしおり”がわからねえ。 |
青年 |
「――そうか。
じゃあな、相棒」 |
――バタン。
|
GM |
青年が去った後、その場所に一枚のデータカードが落ちていることに気づきます。
そこから好きに演じてください。
ある程度まとまったら、シーンを閉じさせてもらいます。 |
翔 |
とりあえず青年の方は後回し。
GM、月見は覚醒・発症しそう、て状態じゃないですかね? |
GM |
それについてはまだ判りません。
ですが、彼女がゆっくりと覚醒に向かっていることは判ります。 |
翔 |
警戒をした上で≪ワーディング≫展開。
その後データカードを拾いに行き、改めて月見の様子を子細に見る。 |
紡 |
翔、≪ワーディング≫を展開してしまうとオーヴァードだったらかなり遠くからでも展開したということが判ってしまうよ? |
翔 |
そいつァわかってる、が仕方ねえ……。
≪抱擁≫カマすと覚醒・発症の可能性がある、もしそうならこっからドンパチの危険があるんだ。 |
GM |
夕菜はオーヴァード化へと向かっているわけではありません。
実に様態は安定している状態へと向かっています。 |
翔 |
……ふぅ、なら良かった……。 |
GM |
夕菜はこのシーン中は覚醒しませんが、PC陣が『夕菜に会いたい』と思いシーンを造れば会うことはできます。ただし、暫く彼女は病院生活だと思ってください。
|
翔 |
安定してると判ったんなら、このまま俺はこの場を去る。
シーンを閉じてもらって結構す。 |
...Scene is end.
GM |
さて、次のシーンです。
次は―― |
――ぺらっ。
|
翔 |
(伏せていた資料を開けている) |
GM |
……読みましたね? |
翔 |
シーン外で十分です、先にシーンを進めててください。 |
GM |
読みたい人! |
夕姫 |
ぜんっぜん読みたくないです!! |
|
夕姫 |
このセッション中知りたくないです!
不吉すぎるのですよはっきり言って!! |
翔 |
ま〜あ、そもそもコイツは標的の1人が落してった情報なんだ。
俺ぁ媒体がある場所でさっさと読むさ。 |
夕姫 |
あ、でもGMにひとつ確認したいのですが、この情報はUGNサイドにも出回ったのですか? |
GM |
出回ってません。
あくまでこの情報は、PC陣では翔しか今は知りません。
ただプレイヤー視点で見る分には構いません、その為に提示してあります。 |
夕姫 |
……。
ちょっと、私は暫く逃げさせていただきます……。 |
――パタン。
|
翔 |
あーあマジで中座しちまった、面白ぇと思うがなこの情報。
つってもまあ……さすがに俺も微妙な顔はしてるンだが……。
てか俺もGMに確認したいんですが、俺はUGNサイドの人物等の情報は持っててイイんすよね? |
GM |
ええ。 |
翔 |
でもって、と〜ぜんながら自分自身も知っててイイ……
なるほどな、俺の中でこういう形に捉えることになるンだ、な――っと。 |
パタン。
夕姫が戻ってきました。
|
PC-α |
おやおかえり。
何だか君も楽しそうに苦戦してるねぇ? |
夕姫 |
そちらも楽しそうですよね……。
私はなんだか、別の人のシーンを見るたびに何故か追い詰まって行くのですよ……。 |
PC-β |
ああ、わかるわかる。 |
GM |
はーい皆さん。
これを読んだり読まなかったりしたかもしれないですが、なんだろうねえこの情報は。
僕はわからないなあ? |
翔 |
ケケケ、なんでしょうねえ? |
GM |
さて、ひとしきりおちついたところで改めて、次はジークのシーンです。
なおミドル1週目はみんなイベントがあると思ってください。 |
Scene is start...
UGN支部からの帰り道。
ジークは1人で、夜の街並みを歩いている。
|
GM |
君は何らかの事情があって夕姫と別れたのでしょう。
夜の街並みを1人で歩いているところ、ふと後ろから足音が響いてくる。 |
ジーク |
足音……?
GM、この場所は人通りは普段多いところですか? それとも少ないところですか? |
GM |
人通りはあまり多くないところですね。 |
ジーク |
では、後ろを振り返る。 |
GM |
後ろを見ると、そこには1人の白い髪の少女が立っている。 |
ジーク |
……ファタ・モルガーナ……? |
GM |
ええ。
支部長が見せてくれた資料の中の写真の彼女と、同一人物ですね。 |
ファタ |
「ジーク!
……ああ、ジーク! 会いたかった!」 |
GM |
高揚した弾む声、喜びを隠せぬような様相で彼女は君に近づいてくる。
のですが、その瞬間君の脳裏にザッ――と一瞬、白い部屋の光景がフラッシュバックします。 |
ジーク |
フラッシュバックした記憶に顔をしかめる。
「君は……?」 |
GM |
君のそのひとことを聞くと、彼女は微笑みを浮かべる。
その瞬間―― |
――フラッシュバック。
少女は笑う。
幸せそうに。
――フラッシュバック。
幸福な記憶。
その中心に確かに自分はいた。
――フラッシュバック。
白い壁。
白い天井。
子供たちの笑い声。
確かに自分の中にあると、確信できる記憶の断片。
次々と沸いては渦をなすが、つかまえようとしてもすりぬける。
纏まり形になる前に、泡沫のように散り消える。
どうして自分は思い出せない?
|
ファタ |
「私ね、こんなに長い間がまんしたの、がまんできたの。
ね、すごいよね? あなたがいなくなって……私、苦しくて……でもがまんしたんだ。
だって、約束したものね。私たち。
だから……あんなにつらい実験にも耐えて……がんばったんだよ」 |
ジーク |
フラッシュバックした映像と現実とが混合して、巧く反応が返せない。
「……ジッケん……?」
瞬くように記憶のピースと目の前の光景が何度も何度もフラッシュしては切り替わり続ける。
「君は、一体……」
”何を言っているんだ”
そう続けたいのだけれど言えない、続けられずに言葉が出てこない。 |
GM |
”君は一体……”
その言葉を聞くとファタ・モルガーナは一瞬ぽかんとした顔をします。
「覚えて……ないの……?」
震える声。
先程までの悦喜が掻き消え、見る見ると打ちのめされたような絶望的な色へと染まる。 |
ジーク |
「……」 |
ファタ |
「なんで、なんで?!
酷い、酷いよ……約束したじゃない、『私たちずっと一緒』だって……なのに、酷いよ……」 |
GM |
絶望に染まった彼女は嘆き、取り乱し、頭を抱えてその場でうずくまってしまう。
暫くの間。
何かに気づいたかのように、突然その嘆きがひたりと止まる。 |
ファタ |
「あ、そっか。
あの子がいけないんだ。あの子がジークを変えちゃったんだね」 |
ジーク |
「あ……の……?」 |
ファタ |
すっと立った彼女の顔に浮かぶのは、子供のような無邪気な笑み。
「だいじょうぶ、まっててジーク。すぐに元のジークに戻してあげるから♪
その時は――約束だよ? また一緒にいてくれるよね?」 |
GM |
そういった瞬間陽炎のように揺らめいて、ファタ・モルガーナの姿は消えてしまいます。 |
ジーク |
次々とフラッシュバックされる記憶。頭の中をめぐり浮かんでは消える数々の断片。
記憶の奔流にさいなまれ、落ち着かせ頭を上げた時には彼女がいない。
「……あの子、誰のこと……?」
夜の静寂の中、喉からようやく出てきたのは、この言葉。 |
GM |
そこでシーンを切りましょうか。 |
...Scene is end.
Scene is start...
H市郊外、喫茶店。
いつもの場所、いつもの席で、夕姫は物思いに耽っている。
領域内を探査しても、ファタ・モルガーナの居場所はようとして知れない。
『こんなことはめったにないのに……』そう思いながら、コーヒーカップに口づける。
“裏切り者”
そう彼女は言った。
あの言葉は私に向けて言われたのだと、何となく私には判った。
それなのに、私には裏切りの記憶がない。
何故その言葉が私へと向けられたのか……?
一瞬記憶の奥底で、何かがうずく。
――フラッシュバック。
眠りに落ちるように深く深く、記憶の奥底へ――
白い白い部屋の中で、子供たちが遊んでいる。
赤いリボンの女の子が、その様子を部屋の隅で見ている。
視線の先には、男の子と――青いリボンの女の子。
いつも、仲が良さそうに笑いあっている。
あの子はそうだ、いつだって誰とだって仲が良い。
赤いリボンの女の子は、その2人の間には入れない。
あの子と、みんなの間には入れない。
だから――そっと逃げるように歩きだす。
画面が霞むように、時間の軸が曖昧になっていく――
|
GM |
いつもならばこの記憶は、曖昧になっていく記憶です。
夕姫は以前にもこの記憶は見ていますね? |
夕姫 |
……はい……。 |
GM |
けれど今回は違った。
時間が曖昧になりつつも、記憶に続きがあった……。 |
――混濁した記憶が波となっては寄せ、ざわめき、白い泡と弾けては返す。
波が引いた後に静かに姿を見せるのは、ある1つの記憶のかけら――
廊下を歩く少女。
冷たい廊下を歩いていると、ふと聞こえてくる大人たちの声。
遠くの扉、普段は閉まっているその扉が少しだけ開いて、そこから大人たちの声が聞こえてきた。
「中止ですか? しかし……」
「私もそれは悔しいと感じています。ですが仕方がないのです」
「なるほど、わかりました。
しかし*******の2人は、私の手元に残しますよ。
支援が無くとも2人分の研究は維持できる。それに私はこの研究が埋もれてしまうのは惜しい」
「それは……しかし」
「大丈夫、全ての責任は私が持ちます。
そうと決まれば早い方が良い、明日私はこの2人を連れてここを去ります。
上には事故が起きたとでも伝えておいてください。この状況なら誰も疑わない――そうですよね?」
――ザッ、ザッ、ザッ、ザ――……
|
GM |
時間と記憶が入り混じっていく。
夕姫の頭の中でまとまりのない世界が形成されていき――やがてひとつの世界が象られる。 |
「ねえ、……ちゃん。今日だけだから。……しようよ。
それでね、……が……ちゃんになって、……が…………なるの。
きっと、面白いと思うの……」
サアァ――……
|
夕姫 |
ではこのシーンはカットでお願いします。 |
GM |
そんなわけにはいきません。
「相席、いいかな?」という言葉とともに、押し寄せていた記憶の波がパッと途切れます。 |
夕姫 |
は、話したくない……っ。 |
GM |
ふと気付くと、目の前には見知らぬ男が立っています。
男は君の了解も取らず、向かいの席へと座ります。
ですがこの男、どこかで見覚えありますので[知覚]で思い出し判定してみてください。 |
夕姫 |
(コロコロ)――8。 |
GM |
ではあなたは判ります。
彼は支部長が出した資料の中にあった写真の男、ファタ・モルガーナと行動を共にしているという線の細い白衣の男です。 |
夕姫 |
空いている席をちらっと見て「席なら他にも空いています」と告げましょう。 |
GM |
夕姫の言葉には完全に無視をします。
「真境名夕姫さん、だったよね」
目の前の男は、まるでこの言葉で全てが伝わるといった様相です。 |
夕姫 |
「……。
どういったご用件でしょうか」 |
男 |
「私は三坂仁義、今日は君に話があってきたんだ」 |
夕姫 |
「何の、話ですか?」 |
三坂 |
「“ファタ・モルガーナ”
君が今探しているジャームの名だ、そうだろう?」 |
夕姫 |
「どうして、貴方がそれを……」 |
三坂 |
「私のことは余り気にしないで欲しいな。ともあれその件で1点、君に忠告があるんだ。
君はこの件に関わるべきではない」 |
夕姫 |
「すごく関わりたくないのは確かなのですが、私の仕事ですのでそういうわけにもいきません。
相手はジャームです。放っておくとこの街の人たちが苦しむことになります」 |
三坂 |
「なるほど。
だが、私の話を聞けば気が変わるかもしれない。最後まで聞いてみてから、それから判断をしてはくれないかな?」 |
夕姫 |
「……」 |
三坂 |
「君の中の賢者の石のなり損ない――我々はこれを“愚者の黄金”と呼んでいるが――君の中のそれは、彼女と激しく反応し合う性質をしていてね。
有体に言うと、その化学反応を引き出してしまうと、君はレネゲイドを抑えられなくなってしまう。
理性も心も何もかも彼女に侵蝕され、衝動に支配された化け物になってしまうのさ」 |
夕姫 |
「こんなところでそんな話をされて、私にそれを信じろというのですか?」 |
三坂 |
「私は嘘は言っていないよ。
その証拠にほら、彼女と会ってから痛むだろう――心臓が」 |
夕姫 |
「……」 |
夕姫の心臓には“愚者の黄金”が同化しているのです。
|
三坂 |
「私はね、大事な子供たちを2人も同時に喪うのは耐えられないんだ」 |
夕姫 |
「あなたはいったい何者ですか?」 |
三坂 |
「私かい?
私のことは……いや、そうだな。私は君たちの“先生”、と言ったところさ」 |
夕姫 |
「せ、先生……っ?!」
その言葉を聞いた瞬間、ものすごく嫌な予感が全身を突き抜けます。
≪ワーディング≫を展開、そして咄嗟に身体を溶け込ませるように掻き消しては、三坂仁義の後ろに現出。後ろから殴りつけます。 |
GM |
≪ワーディング≫を張られると、彼は一瞬クラッとする。
明らかに夕姫の速度に反応してはいないのですが、ポケットに突っ込んだ手がピクリと動く。
その瞬間、殴りつけようとした夕姫の身体に鋭い痛みが駆け抜ける。 |
夕姫 |
……っ?! |
GM |
まるで脳に電流が走ったかのように、腕に、足に、身体に力が入らなくなります。 |
夕姫 |
――どさり。
倒れ込むように現出し、彼の後ろでうずくまります。
「なに……を、しました……か……?」 |
三坂 |
「親が子に反抗を許すとは、思わないことだ」 |
夕姫 |
「……」 |
三坂 |
「私の話がまだ信じられないかね?
もし、まだ信じられないというのなら、今度私のラボに来ることだ」 |
GM |
そういうと彼はメモ用紙とペンを取りだして何事かをさらさらと書きだします。
そのメモ用紙を夕姫の席の前へとおいた後、夕姫の分の会計も持って喫茶店を去っていきます。 |
からんからん――。
|
夕姫 |
「……」
呆然としていると、マスターがとんっと肩を叩きます。 |
店主 |
「よかったじゃないですか」 |
夕姫 |
「えっ?」 |
店主 |
「ずっと人を待っていたのでしょう?」 |
夕姫 |
「それは――」
ここでシーンを切らせてください。 |
...Scene is end.