転校前のいつかのN市、マッド・カクテル溜まり場にて。

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「ウイーッス」
 気だるそうな声と共に、溜まり場に足を踏み入れる。
 担いでいたヤツを床に放る。
 どさり、凄く重い音がする。

「お前この処良く拾ってくるな」
「問題あンならそれ殺しといてください、俺ぁそこまで関与しねえ。
 一応色々身体に教えちゃおいたんで、後はそいつの問題だ」

 既に興味はないといわんばかりに手をふるっては、誰かが飲んでた酒のグラスをひったくる。
 一応というせりふを強調して、適当な床に腰を下ろしてそれをあおる。
 ああ、暴れた後の辛酒は旨ぇ……
 血気盛んな自覚はあるが、それでも喪った血に身体に染みわたるのは格別だ。

 暗闇の中、下卑た笑いが溜まり場に広がる。
 そいつァ俺に対してか、それとも持ってきた子供……いや、子供の姿をしたジャームに対してか。
 床に放られたジャームは死んだように動かない。
 生きちゃいる、気絶してるだけで。


 ついぞ前までは、死んでたけどな。


 まあそんなこた既にどうでも良いわけで。
 今この時に、そいつは生きてるんだから、死んでた事実なンざ関係ない。
 どうしてあの場で果ててたか、そんな事は些細なことだ。
 今、そいつは生きてるんだから
 死から生還した瞬間ジャームになって、俺と殺し合いになったことなんざ……そんな事は些細なこった。


「おいキリュウ」
 酒を飲んでボケっとしていると、セル仲間から掛けられる声。
 そちらを見ればにやにやと、嘲笑うような顔が目に映る。
「……ナンすか」
「お前今週、何人ヤってきた?」
 立ったまま俺を見下ろすそいつはせせら笑いを浮かべたまま、要らん事を聞いてくる。

 この場合のヤってきたは≪抱擁≫を何度使ったか、つまりは何人一般人の死を引っ繰り返してきたか……なんだろうな。
 このセルで『殺してきたか』やらなんざ一々聞くようなこっちゃねえ。
 俺は今さっきジャーム一匹持ち帰ってきてる以上、恐らかそういうこった。
 ……しちめんどくせえな。
「俺に怯えて逃げたのが3人、敵対したのが1人。トドメ刺しなおしたのが3人すかね」
 連れ帰ってきた連中は省いて適当な数値をでっちあげ、けだるそうに返答する。
 そもそもそんな終わった話、割と聞くだけ無駄なのはあっちも自覚してるはず。
 ……てか数なんて数えてねえし、ハナから。
「被害は?」
「いつもどおりっす」
 操れる力の関係上、俺は暴れても周りに破壊等の被害は及びにくい。
 そもそも怪我をし血を流したところで、その血を回収すりゃ終わり。
 被害があるとしたらパターンは2つ。
 対象かその場にいた邪魔ものが暴れて造った被害か、もしくは俺自身の命と理性へのダメージか。
「バカじゃねえの?」
「俺ぁファルスハーツに居るンすよ。
 ヤりたいことヤんのが、ファルスハーツじゃないっすか」
「はっは、違ぇねえ」
 ケタケタと笑うその面に、空になったグラスを投げつける。
 カシャンと割れる硝子の音に、散乱する欠片が花火のようにぱっと広がる。
 いつも通りお決まりの、リアルファイトの開始の合図。

 正義ヅラしてジャームも何もかんも見限るUGNなんざまっぴら御免だ、ヘドが出る。
 やりたいことやって何が悪い。

 そしていつもの、夜は更ける。
 血の赤と硝子と埃とが舞い混じる、騒がしい何時もの夜が更ける。

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