世界なんていうものは、道化芝居の連続だ。

 薄氷の上の平和なんて紛いもの、仮面の下には黒い思惑が飛び交ってる。
 舞台を照らす明かりの外では、暗闇の中忙しなく駆けずり回る連中ばかり。
 レネゲイドが蔓延り世は変貌しているのに、何を今さら覆ってる?
 既に蔓延ってるなら適応すべきだ。それが弱肉強食の自然の摂理。
 無駄に覆って律した処で、良い結果なんて生みやしない。
 目的の為には手段を選ばん、それをテロだ破壊だと決めつける。
 ンなもの戦争抗争でなくても起きるこった、ヤってるこたァ変わらない。
 何もかんも深を覗いて知っちまえば、傍から見たら笑い飛ばす程の滑稽な道化芝居になるもンだ。



 ≪道化芝居の中心地≫


 ドガッ――


 有無を言わさず殴り飛ばせば、路地裏でバカが一人ゴミ溜めに転がる。
 因縁つけてきたアホウを叩き伏せて、口の中に広がる血を唾と一緒にはき捨てる。
 あれで多分暫くは起きない、掛かってきたなら再度潰す。
 動かなくなりゃ興味もねえ、適当に身体を払って背を向ける。

 いつでも、勝てるわけじゃない。
 そんな事は判ってる。

 通す為にゃ力がいる。
 そんな事は判ってる。

 我を通すには力がいる。
 欲を満たすにゃ、力がいる。

 引っ繰り返すにゃ力がいる、そいつァ俺の日常だけじゃない。
 クソUGNがジャームと呼び抹消しようとする存在も、俺らFHの存在も。
 死を生に返すのにも、レネゲイドを制して在るのにも、ジャームを口説いて引き込むのにも。
 生きつづけようとするのにも、何をするにしても力はいる。

 正味俺がオーヴァードになったことには感謝をしている。
 どうしても欲しかったモノが手に入った訳だから、感謝してもしきれない。
 UGNの連中はレネゲイドは理性を喰らうとか心を喪うとかホザくけど、それでも為したい事がある。
 命と理性を代価にしても、護りたい果たしたい衝動が俺にゃある。

 まあ大抵、そいつはひとこと“気まぐれ”でハタから見えンだが。
 言い訳する気なンざ欠片も無いしな、源泉に関しちゃその通り。
 対象から見りゃ一種ストーカー、第三者から見たら悪魔か享楽者だ。
 別にそいつァ些細なこった。
 そいつァそれこそ何時も通り、オーヴァードになる前からの何時も通り。
 勿論、このH市に転校して来る前からのいつもの話。

 何時も通りの、茶番劇。

 ……と……妙、だな。
 暗がりの路地から外の通りとのその間で、ひたりと足が自然に止まる。
 周りの空気が変だ、何かが襲ってくるとかじゃなくてなンつーか……

 虫の音かどうか知らねえが、気付いたのは偶然も良い処。
 他の連中の動きが妙だとよくよく見れば、ある場所に境目が出来ている。
 まるで観客席と舞台を分ける幕がそこにあるかのような、境目がある場所に出来ている。

 自然に出来たものの訳がない、間違いなくこれは……オーヴァードかジャームの形成したものだろう。
 てことはこの幕の先、舞台の向こうは非常の世界。超常者が仕切り舞台を展開してる。

 確信が目に宿りこの先にあるものを想像すれば享楽と飢えがココロを高鳴らせる。
 欲が渇きがこみ上げて、自然暗い笑みが毀れる。

 幕に、境に手を伸ばす。
 鼻に飛び込んでくる薄い血の匂いが、ワーディングやレネゲイド特有の物質の残り香が、幕の向こうで何をやっているかを雄弁に語る。
 これは……

「……ち、つまんねえ。
 ほとんど終わってるじゃんか、ぜんぜん喰い足りねえよ」

 もうちょっと早く気付いてりゃジャームの方に接触できたかも知れねえが時すでに遅し。
 この状況じゃどうひいき目に見ても俺一人じゃ役者不足、既にUGNのハラの内。
 ジャームと接触したら大抵の場合、殴り合いから殺し合いになるのがお決まりのパターン。
 それをやった上でかつ、UGN幾人かともソロでやるにゃ荷が勝ちすぎる。
 此処は俺の地元じゃないしセルの連中も今いない。
 そもそもどこぞのぽっと出ジャームに俺はそこまで傾倒しねえ。
 命運がなかったと思ってあきらめろ。
 くるりと踵を返しては、繁華街の方へと歩みを進める。

 ざわついた繁華街を歩く最中にふと過る、俺の二つ名と組織の名前。
 FarceHeartsを直訳すれば、道化芝居の中心地。
 普遍的な護衛網とやらに対抗する組織の名前が、道化芝居の中心地。
 染めし紅が属するのは、道化芝居の中心地。
 言い得て妙だと……苦笑する。

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