帰ると、元々何もないような部屋は更に徹底的に片付いていた。

「おや、お帰りなさいませ。ジークリート様」

 見慣れた初老のジョンブル――ハーマン・アーバインは、こちらを振り向くと恭しく礼をした。
「相変わらずだな。こんな部屋など、整理した所でやりがいなどないだろうに」
「まぁ、いつもここでは寝るだけの生活のようですからな。たまには料理などもされた方が良い」

 ……いつもこう。しっかり入れるべき指摘は入れてくる。
 幼い頃から両親の他にいた教育係の執事。今もなお困らせていることがある手前、あまり強くは言えないという事情はある。
 まぁ、私が我儘だからなんだけど。

「しかし、ハーマンが抜けてイギリスの支部は大丈夫なのか? 結構大変と聞いているが」
「いや何。数日の間であれば何ともないでしょう。問題はありますが、火急の問題ではありません」
「そうか」

 ベッドに腰掛け、ため息を1つ。この執事が弱みを一切見せないところが、少しだけ気になるのだ。
 私では役に立たない。そういわれている気がして。

「気にしすぎですよ。ジークリート様」

 そして、そんな私の胸中すら、彼は的確についてくる。
 彼からは色々と教わってきた。だからこそ、何かと返したいと思うが、中々難しい。
 先程とは違うため息を1つ。ベッドに座った途端に疲れがどっと襲ってくる。UGNでの戦闘の後はいつもこうだ。
 ごろん、と寝転がると夢に入る前の光景。白い壁、白い部屋、白い天井――

「ああ。今日は寝るよハーマン。後はいつも通り適当に帰ってくれ」
「ええ、おやすみなさい。お嬢様」
「……いい加減、その呼び方は止めて欲しいんだけどな」

 苦笑を1つ。目を閉じるとすぐに意識は混濁の中へと放り込まれる。
 そしてまた夢を見る。
 身に覚えのない。しかし、懐かしい夢を。

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