◇――――――――――――――――――――――――――――◇

 

 ぼーず
 まさかの3連続

 平ゆな
 ごめーんギリ遅刻―;

 ぼーず
 ジャストですが……

 平ゆな
 ジャストは間に合ったって言わないのー;

 GM
 なんて優等生な解答

 平ゆな
 舞台屋だからね、時間には厳しいよ!?

 平ゆな
 1秒遅刻シャットアウトでしょ特に売り出し中!?

 GM
 光画部時間で生活すれば、実に清々しいのに(前後±二時間の幅を取る)

 平ゆな
 江戸時代とかならそれでよかったんだけどねー……

 ぼーず
 はっはっはっ、さて前回もう売れるとかそういう次元じゃなくなったわけですが

 平ゆな
 (くちパクパク)

 ぼーず
 デモンストレーションが行き届いているようで、さておさらいですが

 ぼーず
 落ち着いて聞いてください、あなたが寝ている間に、
 アルコイーリスのレイがヴィランだったことが判明し、
 ソレインがフォーリンラブになり、
 ゆなが重傷を負って声を喪い
 ついでに事務所と小鳩が焼けました

 ぼーず
 という所で……今日はこの絶望から、今に繋がる物語、セラフィム誕生までのお話です

 ぼーず
 一夜? 二夜位は空けていますでしょうか
 ショウアップ系列専門病院の病室でゆなが目覚める所からです


◆――――――――――――――――――――――――――――◇

【Seane-5】

◇――――――――――――――――――――――――――――◆

 ぼーず
 ゆっくりと意識が戻ると、安定の見知らぬ天井、疲労と薬のせいで朦朧とした覚醒になります

 ぼーず
 割と大きめの個室で、ワンルーム位あります
 スキャンダル食らったタレントがガワをマスコミから躱せるようなセキュリティも完備

 ぼーず
 そんな病院でございますがー


 
◇――――――――――――――――――――――――――――◇
 


 目を開ける。
 知らない天井、知らない壁、知らない明かり。

 知らない場所。
 ――否、知ってる。

 病室。

 平ゆな
 気怠い。


 身体が、気怠い。
 重いとも、軽いとも取れない、ただ、気怠い。

 息を吸う。
 違和感がある。

 息を吐く。
 やっぱり何か、違和感がある。

 ぼーず
 ゆっくりと周りを見渡すと医療器械と点滴、後ベッドサイドに人が見えますね

 平ゆな
「   ぁ   ゛   」

 平ゆな
 自分の声に驚く。
 聞いたこともない、ひどく、低い声。

 ???
「……! 目が、覚めましたか」

 ???
「落ち着いて、ゆっくり息を。声は、出そうとしないで」

 平ゆな
「ぁ゛  ……だ  t …… ……?」   

 平ゆな
 げふ、ごふがふげふ。
 喉を抑え、身体をくの字に曲げる。

 
 喉が熱い、痛い、苦しい。
 息が、できない。

 ???
「混乱していますかね、まずは、落ち着いて」

 ???
「ゆっくりでいいです」と肩のあたりにぽんと手を置く、どこか懐かしい仕草

 ???
 具体的にはレイの癖と同じ、なわけですが

 ???
「平・ゆなサン。わかりますか? 聞こえていたらイエスならまばたき1回してください」

 平ゆな
 かひゅー、かびゅー
 おかしな息の音が続いていて。
 涙目のまま、見上げ。


 指を、中空に指す。

 

 平ゆな
 病室の、金色髪の青年の目の少し前に。
 キラキラした光の文字が浮かぶ。

 【きこえています】。
 ――《天使の絵の具》。

 平ゆな
 またたきを、いちどする。

 ???
「エフェクトは、出来れば使わないでください。体によくない」

 平ゆな
 かひゅー、かびゅー、がひゅー……
 ゆっくり息を整えていく。

 ”エフェクトを使わないで”といわれれば、
 キラキラの光文字は、霧散する。

 ???
「……貴女はヴィランの襲撃と、ビル火災に巻き込まれてここに搬送されました。今は再生(リザレクト)すら致命的になる」

 平ゆな
 ここで”これ(《天使の絵の具》)ならぜんぜんだいじょうぶですよ”といっても、こちらを心配してくれてる相手の気持ちを無にしてしまう。
 おとなしくしまう。

 薄く、首を縦に振る。
「……っ」
 瞬間、激痛が走る。
 喉に手をやる。

 ???
「エフェクトを、使わないように。あと、声も……喉のダメージが大きいのです。呼吸器で補助していますが

 ???
 ……決して、声を出そうとしないで、いいですね?」とハッキリとした口調で

 ???
 そう言い聞かせると金髪の青年は「……ご両親を呼んできます」と中座

 ???
 部屋の外から「ゆなさんが目覚めました、顔を見せてあげてください」と

 ぼーず
 そういうと入れ違いに両親? 母? 父? が登場
 今シナリオ初登場

 平博士
「大丈夫かい、ゆな。
 どこか痛いところは……ああ、いや、全部痛いだろうね。
 よくがんばったね、パパがすっきり治してあげるからね」

 平ゆな
「”ぱ 、 ぱ  ”」
 口だけが動く。
 息も、無声音も、ない。

 平ゆな
 ぱっと
 まるで舞台の上の、アイドルのように。
 キラキラとした雰囲気を、笑みを浮かべる。

「” だ い じょ  う ふ  ”」

 平ゆな
「”ぱ ぱ が き た か ら”」

「”じゃ  あん  しん  だ  ね”」
 喉を抑える。
 いまだに痛む、焼け切り裂かれたその喉を。

 平博士
「無理に喋らなくていいよ。
 ゆなは……いい子だから。
 強くあろうとする子だから。
 ああ、でも安心だけはちゃんとしてね。
 パパは何があってもゆなの味方だからね」

 平ゆな
 こくり。
 小さく首を、縦に振る。

 平博士
「だから……今はゆっくりとお休み。
 今後の事は休んでから考えれば十分さ」

 平ゆな
 こくり。

 平博士
 そのまま愛情を示す様に抱きしめて。
 傷に障らないように、頭を撫でる。

 平ゆな
 子猫がすりすり、すり寄るように。
 抱きしめられ、頭を撫でられるのに愛情を返し。

 平博士
「君は無茶をしてしまう娘だから。
 無理だけは、しちゃいけないよ」

 平ゆな
 とびっきりの、満面の笑みで返す。
「” は - い ”」
 そういう口の動きに、見えるかもしれないそんな笑みで。

 平博士
「いい子だね。
 後でママもお見舞いに来るからね。
 怪我や傷に関しては僕より専門家だから……無理してたらすぐにバレちゃうぞ」

 平ゆな
 ぎくう。

 平博士
「ちょっとだけ怒ってたからね。
 ……猫がズレないようにしておきなさい」

 平ゆな
「”にゃ ぁ ん”」
 ぴえんな顔をする。

 ???
「失礼します……平博士、○○先生が今後の治療方針を相談したいと」とここで再登場

 平博士
「ああ、そうだね。
 この子は良くも悪くも特別製だ。
 僕らの知識はどうしても必要になってしまうだろうからね。
 ……タイガ君 だったかな?」

 ???
「はい、その間は自分がここにいますから。万一彼女に何かあれば、すぐにお知らせします」

 平博士
「ああ、よろしく頼むよ。
 それとーーー」

 言うかどうかを迷った末に。

 平博士
「お大事にね」

 タイガの肩をポンと叩いて。

「それじゃあ、ゆな。
 パパは少し行ってくるね。
 時間はかかるかもしれないけれど……今日中には戻ってくるから」

 平ゆな
 こくり。
 小さく頭が縦に振られる。

 タイガ
「……!」言葉には返さないが黙礼する

 平博士
 2人に笑顔で手を振って病室から退場

 タイガ
「……いい、お父様ですね。初めてお会いしましたが」

 平ゆな
 嬉しそう。
 抜けるような笑みを浮かべる。
 喉には手。

 タイガ
「……痛みますか? ちょっと様子を見ますね」

 平ゆな
 こくり

 タイガ
 身体を起こしたせいだろう、ズレた器具を慎重に手早く治し傷を癒す――まるで手馴れているかのように

 タイガ
 全く違う、そもそも性別から。
 だがしかし、その甲斐甲斐しい姿は見知った”彼女”を君に想起させる

 平ゆな
「” t  ”」

 平ゆな
「” れ  い  ちゃ    ? ”」

 タイガ
 口の動きを見て顔を顰める
「……」

 タイガ
「自己紹介が、まだでしたね」

 タイガ
「……できることなら」

 タイガ
「ただの看護師として、貴方がここを去るまでいさせて欲しい」

 タイガ
「それが一番、幸福だと確信しています、その上で」

 タイガ
「やはり黙っているのは不誠実だ、だからもう一度問います」

 平ゆな
「れ゛  ぃ  ぢゃ   」

  「ぃ    っ   ぢゃ    ゃ゛   だ」

 平ゆな
 文字通り、無理に、声を出した。

 タイガ
「……! やめてください」

 タイガ
「本当に、本当に取り返しがつかなくなってしまいます」

 平ゆな
「だ     だ    っ」

「だ っ  でれ゛   ぃぢゃ、」

 平ゆな
「ぎ    ぇ゛    るぎ」

 タイガ
「……今の貴方のその疑問を問われたなら、私は答えなければいけない

 タイガ
 しかし、答えるならば、非常に――貴方にとっても辛い真実が明かされます」

 タイガ
「だからどうか……その名で呼ばないでください」

 平ゆな
「ぎぇ゛  あ゛  い゛  ?」
 喉を抑えて、口が波口。
 すごく不服そう、”その名を呼ぶな”と、”消えようとしていること”とが。

 タイガ
「……」”消えない?”と聞く少女、しかし、己にその答えを告げることは――

 タイガ
「……聞く覚悟は、ありますか?」

 平ゆな
 喉を抑えたまま、こくり。
 縦に振る。

 タイガ
「……私は、タイガ、といいます」

 タイガ
「名前は、それが全てです、己の記憶らしいものもない。オーヴァードになる前の時間や生活はあったはずなのですが、もうない」

 タイガ
「あるのは――アルコイーリスであった時の、マリーシャ・レイニーディとしての記憶、そして――」

 タイガ
「昨日君を襲ったヴィラン”レイニーデビル”の記憶だけです――」

 平ゆな
「……」

 タイガ
 ここで自分の出自を明かします、全部RPだと長いので端折りますが

 タイガ
 ・あるヴィランに拉致されて改造された潜入破壊工作兵器としてのオーヴァード、レイニーデビルであること
 ・潜入先は平博士の研究成果ー”プロミネンス”ゆなであること
 ・アイドルとしての潜入にあたり、タイガ人格が封印され、新たな人格が作られたこと

 タイガ
「女性人格であるレイニーデビルは、潜入のため、ある人格を作り出しました。
 ひとりっこの君に好かれ、頼りがいがあり、気にかけてくれる優しい姉のような女性。
 アイドルとしても遜色のない、華やかさと気立てよさを兼ね備えた人格」

 平ゆな
「……」

 タイガ
「ユニットの長女として、支え引っ張りときには一緒に笑う――そうして生まれた架空の人格」

 タイガ
「……それが『マリーシャ・レイニーディ』です」

 タイガ
「そうですね、わかりやすく例えるのならば

 タイガ
「テレビゲーム、キャラクターを作り遊ぶその在り方に近い。
 私という体(タイガ)がゲームハード。レイニーデビルがプレイヤー。
 ……そしてゲーム内のキャラクターが、マリーシャ」

 タイガ
「そして昨日、レイニーデビルは画面の向こうに手を伸ばし、君を手に入れようとした」

 タイガ
「……画面の向こう(アイドル)の世界で生きるための仮面(キャラクター)を破壊して」

 タイガ
「……だから、もう」

 平ゆな
「……」

 タイガ
「彼女は、この世界に存在しない。あるのは抜け殻になった体(ハード)だけ、私だけ、なのです」

 タイガ
「ですがレイニーデビルは敗れた、貴方の心と彼女の絆によって。しかし、」
「私(レイニー)を作ったヴィランは執念深い、昨日のニュースも彼の知るところとなるでしょう」

 タイガ
「……そうなれば貴方の身が危険に晒される」

 タイガ
 ここでつう、と右腕から血が滴り落ちる
「……失礼、もう晒されています。隠し通すつもりだったのですが」

 平ゆな
 ナースコールのボタンを押す、びーっ。

 タイガ
「……!? ってなにしてるんです?」

 平ゆな
 しかめっ面して、滴った血を、そして右腕を指さす。

 タイガ
「いや、それは今気にすることでは……!」

 平ゆな
 頬が膨れる、ぷー。

 朝倉看護師
「はいはい今来ましたよ~……って血ぃ!!」

 タイガ
「ああ……ええと、すいません」
 なんていえばいいんだ

 平ゆな
 口パク、パク、パク
「”ち、 ち  おおけが たすけて ”」

 平ゆな
「”この ひと ひーろー”」

 平ゆな
「”まも っ て けが おって”」

 平ゆな
「”ち ち おおけが かれ を たすけて”」

 タイガ
 そこでさっき一般通過刺客倒したら、うっかり腕が割れちゃって、とか言えない

 タイガ
 と思ってたらこの子すごいこと言い出した

 朝倉看護師
「ええと ええと こういう時はどうするんだっけ。
 とりあえず止血……そう、止血!!」

 タイガ
「え、ええとその……」弁解しようと思うが、言葉にならずー

 朝倉看護師
「とりあえず、患部の止血と消毒しますからね!
 じっとしててくださいね!?
 私ドジなんで!!」

 タイガ
 (……この人ここで治療させるわけにはいかんな、出ます)

 タイガ
「わ、わかりました……でましょう!」

 タイガ
 呼ばれた看護師と一緒にたーいじょー

 平ゆな
 薄くだけ、手を振る。
「”おだいじにー”」
 口パク、無声音も出さなければ、まず聞こえてはいないだろうけれど。
 それはそれとして、見送る。


 
 ――バタバタと。
 ――怪我騒動で、部屋を引っ張り出されていく青年と看護師と。

 残るはただ、自分ひとり。


 個室の扉は放っておけば、勝手に閉まって。
 

 平ゆな
 ふと、TVをつける。

 状態の把握に。

 ぼーず
 じゃあTVで焼け落ちた事務所と、その前の献花が写るかな

 ぼーず
「……一夜明けたSTUDIO『POPPO』では悲しみに包まれています」
 映るのは焼け落ちた事務所、と誰ともなく集まった献花

 ぼーず
 ―グリーン・ダイヤモンド。癒されない緑でーすと自嘲地味に笑う、天気雨の象徴
 その翠の薔薇を捧げながら泣き崩れる少女が写る

 ぼーず
 ―紫陽花。雨と共にある花。青色のそれは癒しの雨の象徴。表情の消えた顔で捧げる青年の鞄には、華やかに微笑む金髪の少女が写っている

 ぼーず
「この事故で”ソレイン”真下・愛さん(15)、”レインメーカー”マリーシャさん(19)の死亡が確認されー」

 ぼーず
「また、”プロミネンス”平・ゆなさん(14)が重傷。救助に向かった村雨・小鳩(25)が爆発に巻き込まれて、意識不明の重体ですー」

 ぼーず
 己の入院している病院が映る、救急車から病院の裏口に運ばれるその体は、モザイクの上からでもわかる程、酷く傷ついていてー

 平ゆな
 

 ――ぷつっ。

 

 ぼーず
「現場では当時、ヒーローたちの抗戦のために救助が遅れており、ヒーローシステムの不備を指摘する有識者の声もー」

 ぼーず
 無責任なコメンテーターの声が耳に届く前に、TVは暗転した

 平ゆな
「……」

 平ゆな
 力なく、リモコンを落とす。

 平ゆな
 ”重傷”
 全治一か月以上の入院を伴う傷害。
 それでも、生命には別条はない。

 《生命》には。

 でも、

 平ゆな
 ”重体”
 脳や内臓器官の損傷などで、生命にかかわるほど危ない状態。

 意識不明の重体といえば、ほどなく死の可能性。
 よくても、植物状態になる可能性がある――状態。

 平ゆな
 そーちゃんと、レイちゃんは”しんだ”と報道されてる。
 病院を、状態を、鑑みたら。

 そーちゃんは、しんでない。
 ――あの後で死んでるとはちょっと、想えない。

 レイちゃんは、しんでない。
 ――だって”レイちゃんの身体の持ち主が生きて動いてるから”。

 平ゆな
 てなると
 世間に通るように報道した。
 その位までは分かる。

 2人分は。

 でも、

 平ゆな
 枕を前に、ひざの上で抱いて。
 ゆっくりと、その枕にぽふり、顔をうずめる。

 平ゆな
「……ぁ゛、……ぁ…………ぁ………………っ゛」

 嗚咽が、私の喉から漏れる。
 聞いたこともない声、されど間違いなく私の声。

 ――壊れた。
 ――歌手としてはもう望めない、壊れた声。

 平ゆな
 私は確かに、生きる生命に、別状はない。
 だけど、壊れた。
 ”歌手としての生命”が。

 アイドルとしての、生命が。

 平ゆな
 それよりも、

 平ゆな
 私を見出してくれたハトさんが、

 私のせいで

 ハト さん が、

「……ぁ゛…………ぁ゛………………ぁ゛」

 平ゆな
 聞くに堪えない割れた音。
 ずいぶん遠くから。
 否、随分近くから。

 ぼろぼろと、涙が止まらない。
 そのたびに、白い枕がそれを吸って、かき消して。

 平ゆな
「――ぁ、――っ」

 痛みが走り、喉を抑える。
 裂かれ、その上から焼かれたはずの喉。

 刺された傷に、はらわたに手をやる。
 貫かれた、その傷。

 ずいぶんと、きれいな。
 ”あの状態の後で考えるなら”。

 平ゆな
 傷から、手を上に
 目線は下

 腕が目にはいる、傷ひとつ、ない。
 頬に手を滑らす、形はそのまま。

 平ゆな
 ……身体は、ある。
 …………身体は、動く。

 平ゆな
 喉に手をやる。
 たしかに、ボロボロで、壊れて。
 見る影も、聞く影もないけれど。
 ”まだそこには、あって”。

 平ゆな
 手を、握って開く。
 まだ、ぎこちない、けど。

 まだ、ある。
 わたし、は。

 平ゆな
 ”アイドルは偶像”
 あのヴィランはいった。
  ――そうだと思う。

 アイドルは、夢を、希望を与える偶像。
 《本当》はいない。
 いわば、綺麗な虚像。

 
 だからこそ、
 壊れかけた偶像だからこそ、できることがある。

 ひとを、勇気づけることも、奮い立たせることも。

 平ゆな
 五体満足じゃ無かったら、そこでジ・エンド?
 ヒーローだよ、けがもすれば心も侵される。
 操作だってされるだろう。

 折れたからこそ、終わったからこそ。
 ――そこからふるいたてば、支えになる。

 
 ”私はまだ、全然生きている”。

 平ゆな
 レイちゃ……タイガさんはいってた。
 ”レイちゃんはもういない””そーちゃんはヴィランになった”。

 もう、あのアルコイーリスは戻ってこない。
 そう考えると、気が昏くなる。
 分かってる。

 みんなで望み叶えようとした、レジェンドなのに。
 ”もう、それは、届かない”。

 平ゆな
 分かってる。
 でも、

 ここで私が折れたら、本当に”雨降りの悪魔”にすべて喰われてしまう。

「”もし、万一……”」
 そのことは”かんがえてはいけない”。
 だって、タイガさんはやっと、タイガさんの人生を歩めるようになったんだから。
 そこは応援しなきゃいけないところ。
 そっと、背中を押さないといけないところ。

 だからこそ、

 平ゆな
 心配ないよって
 こんな怪我? 痛くないよ、問題ないよ、へっちゃらだぞって見せなきゃ。

 ずっとずっと囚われる。

 彼のためにも、

 平ゆな
 ぱちんッ。
 両手で挟むよう、
 頬をはたく。

「”よーしやるぞっ”」
 気合入れ。

 墜ちた虹?
 喰われた太陽?

 さてどう売り込む?
 リハビリと並行して私も考えなきゃ。


 ???
 ガラガラと遠くから聞こえる車輪の音。
「――カな――やめ――、重――」
「い―――! ゆ――起き―――」

 平ゆな
 ぴく、耳が動く。

 ???
 重い音に交じってどこかで聞いた声がする。その声は、本来ならここにいないはず、で

 ???
「勝手――いいわけないでしょう!」
「ICU居たってしょうがないでしょ! ゆなが待って――から」
 かすかに、はっきりと聞こえる声

 ???
 病室のドアが開く、ゴロゴロと重たい音を立てて、ベッドが乗り込む
 引いているのはさっきであった金髪の青年

 ???
 ベッドの上には――小柄な人影。
 蒼白な顔面は半分以上、分厚いガーゼと包帯に隠れていて、物々しい機械は不吉な音を立てている。
 布団の上に出した手も、わずかに覗くドス黒い足先も、
 彼女が一般に、ここにいることを許されない状態であることを告げている。

 小鳩
 それでも『彼女』はなんてことないように、いつも通りの笑顔で、少女に微笑みかけた。
「お待たせー! ゆな!!」

 平ゆな
「”はとさーん、いきてたー!!”」
 よた、よたっ
 普段なら飛び込みだが、よた、よた、と、近づいて。

 ハグ―っ。

 小鳩
「ご心配かけました! 貴方の頼れるマネージャー、村雨小鳩。ちょーっと急いでまいりましたー!!」

 小鳩
「おー……その勢いはちょっとー!?」

 平ゆな
 とびっきりの笑顔と、とびっきりのアイドルの様。
 彼女にはそれが特効薬だ。
 全力で魅せよう。

 耳元に、唇を添えて。
「”はとさーん、よかったー、いきてたー”」
 振動で、伝わるように。

 小鳩
 こちらもぎこちなく、包帯ぐるぐる巻きの両手でぽふりと受け止めながら、優しく抱きとめる

 小鳩
「んーどうしたー? ここ、個室だからー、」
 声を出して大丈夫、と言おうとして、喉の器具と包帯に気付く

 平ゆな
 てへぺろ。
 すっごい悪戯っぽい顔。

 小鳩
「……!」
 一瞬、泣きそうな顔、そのまま肩の向こうに顔を押し出して無言で抱きしめる。

 平ゆな
 そしてまた耳元。
 ささやき声すら出ない、無声音すらない。
 口パクで、振動だけで。

「”ちょーっと、ヤっちゃいましたー☆ミ”」

 小鳩
「……うん、よく、がんばりました」とわしゃわしゃと

 平ゆな
「”だいじょーぶっ”」

「”私はまだ、元気元気っ”」

「”《墜ちた太陽の復活劇》みたいなの一発、やりましょーっ!!”」

 小鳩
「ホント、がんばった、よ。」声は震えている

 平ゆな
「”にゃー。ハトさんにそういってもらえると嬉しいでーす”」

 小鳩
 わしゃわしゃ、と無言で撫でる

 小鳩
 暫く撫でた手が止まる。
 濡れた瞳で真っ直ぐに見つめて少女に語り掛ける。
「……ひとつだけ、確認するね」

 小鳩
「今言った通り、ゆなは、いっぱい頑張りましたっ! だからね、私ー

 小鳩
 『もうおしまいにしてもいいよ』って言いに来たの。
 今話してくれたこと、とってもファンとして嬉しいけど

 小鳩
 ……もし、そうしなきゃいけない、とか
 私のために、とか、私達のために、とか

 小鳩
 ゆなは――”アイドル”だから

 小鳩
 そう言うと思う。でも

 小鳩
 ――ここには私しかいない、だから、何言ってもいい」

 小鳩
「だから――もう一度、いって。聞こえてるから、聞いているから」

 小鳩
「”ゆな”の、答え」

 小鳩
 頬に手を添えて真っすぐに見る。
 彼女の答えが、本当の答えがさっきのままなのかどうか。

 小鳩
 それを、待つ

 平ゆな
 満面の笑み。
 それは確かに偶像アイドルの笑み。

 ただそれは、
 それは確かに、同時に、彼女ゆなの笑み。

 平ゆな
「”おはなしてきにー、”」

 平ゆな
「”《虹は墜ちて、太陽は翳って、雨は飲まれて消えました》”」

 平ゆな
「”そんなバッドエンドは、誰も彼も望んでないのですよー”」

 平ゆな
 ぷーぷー、ぷーぷー。

 平ゆな
「”だからね?”」

 平ゆな
「”ゆなは、昇るのですよ”」

「”みんなに、愛の炎を灯すのに”」

 平ゆな
「”ハトさんも、タイガさんも、そーちゃんも、みんな、みんな、すくうために”」

 平ゆな
「”やまない雨はないのです”」

「”でも、私は、脚本(ストーリー)をつくるのは難しい”」

「”だから”」

「”ハトさん、力を貸して、ほしいのですよ”」

 小鳩
 唇を読む、優しく笑う

 小鳩
「大変だよ? 心無いこという人がいっぱいいるかも知れない」
「誰も見てくれないかもしれない、わかってくれないかもしれない、そもそも届かないかもしれない」

 小鳩
「それでも――続きが見たい?」

 平ゆな
「”うん!”」

 小鳩
「そっかーじゃあ」

 小鳩
「とびっきりのお話を書こう! 世界中皆を巻き込んで、誰も貴女から目が離せないような、誰もが貴方のことを知りたがるような、誰も、貴方の素敵なお話を知らないことがないような!」

 小鳩
「愛と希望がいっぱいの――素敵な話。
 だってゆなは、アイドルなんだから」

 平ゆな
「”うんっ!”」

「”ゆなは、アイドルだからっ”」

「”大好きですよ、ハトさんっ”」
 と、耳をはむよう、キスをしましょう。 

 小鳩
「ひゃあ!? ふへへぇ……」溶けました

 小鳩
「……じゃ、タイガくーん? そういうこと、で」

 小鳩
「賭けは私の勝ちっ! これからもよろしくね」

 タイガ
「……護ります、といった手前、断れないですね」

 小鳩
「うん、ゆなー? あのね、朗報です。こちらのタイガくん、ウチで預かりになりま-す!」

 平ゆな
 ほへっ? て顔。
 くちびるに人差し指を添えて、タイガさんとハトさんを交互に見る。

「”なにか、かけて、たの?”」
 だいぶゆっくりに。
 タイガさんにも小鳩さんにもわかるように。

 小鳩
「この人さー? ゆなと私の安全確保したら消える気満々だったからね」

 平ゆな
 ぷっすー!
 ”消える気だった”てのを聞いた瞬間、頬がふぐに!

 平ゆな
 きえちゃヤだっていったのに―!

 小鳩
「でもそれって、どこまで? ゆながご家族の元戻ってーヒーロやめてーなら安全かもだけど

 平ゆな
 ”ヒーローやめる”

 絶対にソレハナイ。
 という感じで首を横に振る。

 小鳩
 ヒーローもアイドルも続けるなら、狙われ続けちゃうじゃんね? って

 小鳩
 だからー”ゆながアイドルヒーローやめたら、やめていいよ、続けるならマネージャーね”って約束したのです」

 平ゆな
 ふーん。
 と、見上げる、タイガさんを。

 小鳩
「結果はご覧の通り! いぇい!」

 平ゆな
 いぇいっ
 マネっこして。

 こころの中で”そっかー逃げる気だったかー。じゃあ頼まれたこと1個破っちゃお”。

 平ゆな
 ウルトラ満面の笑み。
「”じゃあ よろしく ね レイ ちゃん★”」

 タイガ
「……正直、このパターンは全く想定してなかったです。目覚めてそうそう、こんなこと言い出すこの人にもペース握られた部分もありますが」

 タイガ
「……!? いやだから聞いていました?『レイちゃん』はもう」

 平ゆな
 に っ こ り

 平ゆな
「”よ ろ し く ね レ イ ちゃ ん★”」

 平ゆな
 有無を言わせない満面の笑み。

 平ゆな
 ――ほぼ100,”消えようとしたこと”に怒ってる。

 タイガ
「!!! ……返事はしませんよ、でも、まぁ」

 タイガ
「消えようと、いや逃げようとしたことは謝ります」

 タイガ
「無責任だった、護るというならそこまでするべきだった。人倫に悖りますよヴィランであっても、ね」

 小鳩
「じゃー今日からマネージャーね! 私がプロデューサー! タイガくんキレイすぎる顔してるから、グラサンとかかけて肌焼いてなめられないようにしよっか!」

 タイガ
「はい???」

 平ゆな
「”きれいだよねー”」

 平ゆな
「”じっさいアイドルスカウトされそうだよねー”」

 平ゆな
「”焼かないでもグラビア出てみますー?”」

 小鳩
「前の記憶もあるって言ってたし、マネもよゆーよ、よゆー!」

 平ゆな
「”よゆーよゆー”」

 タイガ
「……1日待ってください、鍛えてきます」

 ぼーず
 とすると、ここで脱走対してアラートが鳴り響きます、ICUベッドごと抜けてきたアホがいるので当然ですね

 小鳩
「あちゃー」とここで一気に力なくベッドにもたれかかる

 平ゆな
「”ここからですねー”」
 悪戯っぽい小悪魔的な、イイ笑顔。
「”ふぁいお、ハトさーん”」

 小鳩
「そろそろ、お帰り、の時間かな」

 小鳩
「ん、ファイト、がんばろうね」

 平ゆな
「”わたしも、ふぁいおー”」
 当然だ。
 脱走先は”自分の個室”だったのだから。

「”ここまで含めてショウアップ売り込んじゃうかなー……”」
 真剣に素材集め。

 小鳩
 見ると大分顔面蒼白で呼吸も荒い
「ユピさんに、話通して、早めにカムバック宣言しましょ、あと――」とブツブツ言ってる所でナースたちが来る

 平ゆな
「”私は病室で呆然といまのTV見てるところのを撮っておいたりかなあ”」

 おててふりふり。

 ナース
「あー! 村雨さんこんなところに居ました」
「ちょっと誰か酸素もってきて!」と囲まれて退場




 タイガ
「……あのひと、『死ぬ前にゆなに会いたい』っていって抜け出してきたんですよ」

 タイガ
「かなり強い、薬打って――そういう状態でした
 これが最後になるかもしれないこと隠して、俺も連れて」

 タイガ
「……それでも、貴女に会いたかった、話をしたかった――確認したかったんだと思います」

 平ゆな
「……」

 タイガ
「――あの分なら死ぬことなさそうですが」

 平ゆな
「”だろうね”」

「”だいじょうぶ、だよ”」

「”あのひとは、《いきるりゆう》が、できたから”」

 平ゆな
 にこやかに。
 満面の笑みを浮かべる。

 タイガ
「ええ――俺にも」

 平ゆな
「”うん”」

 タイガ
「命を懸けられました、なら――こちらも命をそのために使います」

 タイガ
「だからーよろしくお願いします、ゆなサン」

 平ゆな
「”よろしくね レイちゃん”」

 タイガ
「タイガ、でお願いしますーまずは」

 平ゆな
 ぷい、横に首を振る。

 平ゆな
 基本的には聞きわけがイイ。
 事実負担がなくても気にしてくれてた以上、エフェクトも使わず声も出してない。
 ”レイちゃんと呼ばないでほしい”も聞いていた。

 だが、

 ”消える(逃げる)気だった”のは、赦せないようで。
 その分、彼からの希望をひとつ、破ってる。

 《レイちゃんとは呼ばないでほしい》という、希望を。

 タイガ
「……はぁ」

 タイガ
「”レインメーカー”のままで通り名はいきます、しかしあくまで俺はマネージャー」

 タイガ
「どう略していただいても結構です。ただファンの前では、やめてください……あらぬ誤解を産みますし」

 平ゆな
「”ぜんしょしまーっす”」
 ときとばっていってやがる!!?

 タイガ
「そこではその名は――”彼女”のものですから」

 タイガ
「……戻ってきたときにその場所に俺がいるわけにはいきません」とぽつり

 平ゆな
 にこり、笑みが深くなる。

 タイガ
「では改めてーよろしく、ゆな」

 平ゆな
「”よろしく、レイちゃん”」

 タイガ
「じゃあー俺も手伝いに行ってきます。死なないでしょうとは言いましたが、放っておけるわけもないので」

 タイガ
 という所で病室を後に





 
 ――彼が、彼女が去って。

  ――しばらくで。

 

 平ゆな
 身体が震えてくる。
 ガタガタと。

 手で押さえ、それでも収まらない。
 抑える必要は”いまはない”。

 今――ひとりなら。

 平ゆな
 舞台の幕は上がった。
 脚本家は準備した。

 誰も彼もが絶望に飲み込まれる、それを阻み止めるための。
 とびっきりの逆転劇、その為の舞台の幕は上がった。

 平ゆな
 ”――謝らないから、ハトさん”

 分かって彼女はのってきた。
 ”それが虚像だとわかった上でも”

  ”彼女(わたし/あのひと)にとっての、救いの/救われる、犯罪なのだから”

 平ゆな
 ”――謝らないから、タイガさん”

 否応なくの、贖罪の楔。
 囚われないようにするためであったとしても。
 その前に、消え墜ちてしまわぬようにするための楔。

  ――それが最後には最悪の楔になるのだろうけれど。
    ――今は、必要悪だからと。

 平ゆな
 ”ああ、でも、こわいなあ”
 ガタガタと、震えている。

 ”どんだけ恐ろしいかって”
 ”どんだけたいへんかって”

 喉を抑える。

 ”こんな怪我なんて、目じゃないくらいなの”
 ”――覚悟しなきゃいけないんだもん”

 平ゆな
 ”重ねて、昇って、あがって”

 ”そうして、”

 ――私たち、3人で、レジェンドになろうね!
    それがどれだけ大変なことか、知ってる。


 それ を たったひとりで。


 あの聖騎士パラディンを打ち倒し
 大きく超えるほどに。

 ――墜ちた太陽が。
  

 平ゆな
 何にあやかる?
 何で戦う?
 何を武器にして、何を使って。

 
 鳩さんを、生かして神とするためにも。
 大河さんを、囚われ楔から解放するためにも。

 なってみせる。



 熾天使セラフィム》となって。

 ――やって、みせる。
  ――ぜったいに。

 


 
◇――――――――――――――――――――――――――――◇


 その日、雨は嵐と火に消えた
 その日、天気雨は混沌の渦に呑まれた
 その日、日輪は――飛ぶべき空を喪った


 これは喪失の話、これは現実の話、夢想の虹は壊れ、暗黒の地平にただ堕ちた
 だが、しかし――


 これは再起の話、これは偶像の話、地に落ちた翼がもう一度強く、陽光を纏って飛び立つ話
 これが後に伝説と呼ばれるのか、虚構と呼ばれるのかは――まだ誰も知らない


 それでも彼女は地を蹴った、
 傷だらけの喉で愛を歌い、
 泥だらけの翼で風を打つ

 その軌跡が――いつか空に届くように


 
◇――――――――――――――――――――――――――――◇

 ぼーず
 第0話ー「めぐりあい」
 これにて終了です。お疲れさまでした

 平ゆな
 お疲れ様でしたーっ。

 GM
 とてもよいロールでした。
 経験点+5点あげます

 GM
 ほんとにあげます

 平ゆな
 わーい

 ぼーず
 わーい!

 平ゆな
 つっかれた―ってか色々回収するのがんばったよ!

 平ゆな
 どえぐい? 仕様です、芸能世界だぞ!?

 ぼーず
 なんかこう、皆ヤバくなったね、やってよかったね(ぐるぐる目

 平ゆな
 てことでヒーローネームも回収しました☆
 し、呼び名も回収したよっ。

 平ゆな
 死に滅に向かってしまう彼女の生きる理由のために
 同時に、彼女を神とするために。

 死に滅に向かってしまう彼を生かすために
 同時に、囚われから解放するために。

 平ゆな
 近いのがその2名だからそこをフォーカスしてるけれど
 根幹は「みんな、愛しているよ」「だからみんなを救うんだ」ですからね。


 
 
 
◇――――――――――――――――――――――――――――◇