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 【幕間】トワイライト・エピローグ
     ――Written by TsukiyaPlayer

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 ※注意
  上級ルールブックのサンプルシナリオ:MemorialBlossomのネタバレをうっすら含みます。
  また、門倉丁のHPのリプレイを読了した方前提の物です。
  どっちも読んでない方は全力で×を押してください。

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 "母さんへ

 ずっと墓前でまともに話もできなくてごめんなさい。
 毎年墓参りは欠かさなかったけど、父さんと一緒だったから本当のことを言えなくって。
 でもきっと母さんは空の上から全部見ていて、俺が隠してることは全部知ってると思うから、そのつもりで手紙を書きました。

 俺、やっと学校に通うことになりました。
 仕事上の都合とか、生活上の都合とか、俺自身が自分のことをごまかすの苦手だったりとか、
 そんなこんなな理由をあれこれ重ねて何とか父さんを誤魔化して仕事をしてきたけど……
 色々あって、もう通うことはないだろうと思っていた学校に通うことができるようになりました。
 今まで全く勉強してこなかったのが祟っててんてこまいですが、通える限りは頑張って通おうと思います。
 おかげで毎日が超ブラックなハードワークだけど今程楽しい毎日もないし、支えてくれる仲間や友達もいるから。
 きっと2人が俺に望んでいたであろう日常を、楽しめる限りは楽しんでいきます。


 母さんだけ逝かせてしまった上に、父さんにもたくさん苦労をかけた親不孝者の息子が言うことじゃないかもしれませんが。
 できれば。よかったら。これからも見守っていてくれると嬉しいです。
           月夜"



 ――ペンを置き、ふうとため息。


「…………勉強やんなきゃなのに、何やってんだよ俺」


 書いてしまったものは仕方ないが、と書き終えてしまった手紙をそっと折りたたみ封筒の中へ。
 ペンを手に取り、参考書と再び向き合おうとした時何枚も何枚も書いて捨てた手紙の山と化したゴミ箱が目に見えてそれを片付ける。

「……いやこんなことやってる場合じゃねえだろ!!」

 またノートに書き写そうとすると消しゴムのカスが目に映るが、これはぐっと我慢して勉強を再開する。
 頭を掻きながら参考書とにらめっこしてはその意味を自分なりに咀嚼してを繰り返し、問題がずらりと並ぶノートに答えを記入していく。
 脳が沸騰してきたなと思ったら茶を一口飲んで、軽く深呼吸をして。それから黙々と机に向き合う。

「……ん゛ー……」

 問題の文章に目を通して眉間に皺を寄せる。
 ――言葉というのは難しい。
 こうしてずらりと立ち並ぶ文章の間から適切なものを抜き出すことすら骨が折れる程に、月夜は言葉を選ぶということに関しては壊滅的に苦手である。
 ということを今回の任務で改めて思い知らされた。

「……戦いたくないっつってんのに真っ先に挙げたのがエージェントって……俺のバカ……もー……」

 ふと数日前のことを急に思い出して頭を抱える。
 正直今思い返すと彼女の親友に殴られてもおかしくなかっただろうし、座長にもよくまあでこぴんで済まされたとも思う。
 それなのにこちらの「友達になりたい」という言葉を受け入れてくれたのは感謝が尽きない。
 そんな彼女が安心して学校に通えるように、勉強を死ぬ気で頑張らなければならない。
 ならないのだが。

「ああ――――――も――――――――俺もうちょっと考えて喋る癖つけろよも―――――バカ――――――――!!!!!」

 一度思い出したら連鎖的に類似した現象も脳裏に浮かぶというもの。
 黒歴史の波がやってきてペンを握ることすらできず頭を抱えてごろごろ、ごろごろ。
 約1分程して再び起き上がり机と向き合う。

「……だからこそ、こうやって知識つけてかなきゃだもんな……」

 再び目の前の文章から回答を抜き出すべく、ペンを取り取捨選択の斜線を引き始める。
 現代文の問題も言葉選びという点に関しては同じだ、パターンに応じて適切なものを抜き出しては記入し、場合によっては自分の解釈した文章を以て回答する。
 それらの長い長い積み重ねが人の紡ぐ言葉というものを生み出し、そうして繋がりは生まれていく。
 今回の縁もそうして生まれたのだ。
 だからこんなところで躓いてはいられない。
 言葉足らず選べずで向こう見ずな自分に根気よく付き合ってくれた皆の気持ちに応えたいから。

 自分の力を信頼してくれた上で託してくれたこの任務を果たすため、与えてくれた日常を全力で謳歌するために。
 今目の前に立ちはだかる「勉強」という名の敵にペンという最大の武器を握って立ち向かっていく。

 ――無事テストを乗り越えたら、さっき書いた手紙を母さんに届けよう。
 きっと空に向けて手紙を燃やせば届くよな?……って、今はそれを考えてる場合じゃないか。
 軽く頭を数回振って、再び回答に臨んだ。

 夕日がペンの軸に反射して煌めく3月末の黄昏時。
 新学期まであと少し、その奮闘が無事報われたかどうかは、また別のお話。


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