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 Back Track
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GM:地獄が最奥第九圏、コキュートスの中心にて。
GM:バックトラックのお時間です。
GM:各人、最終侵蝕率と、残ロイス数を宣言してください
服部 絵理奈:侵蝕率122、残ロイス7!
神崎 リサ:侵蝕率114、ロイスが7でした!
高橋 健人:102%のロイス7です(小声
GM:予告通り、今回はPC番号逆順でバックトラックを敢行します。
GM:PC3:高橋健人。
GM:等倍ふりor倍ふり、いずれかを宣言し、バックトラックを敢行してください。
高橋 健人:倍振りしたらどこまで逆行するんだろうなの等倍ぶりします
高橋 健人:7d10
DoubleCross : (7D10) → 50[8,8,10,4,8,9,3] → 50

GM:おかえりなさいませ。
高橋 健人:なにかひどい目が出てて今見直したけどただいま
神崎 リサ:ここにきて目が おかえりなさーい
高橋 健人:52……
服部 絵理奈:おかえり現世
GM:PC2:服部絵里奈。
GM:等倍ふりor倍ふり、いずれかを宣言し、バックトラックを敢行してください。
服部 絵理奈:等倍振りでいきまーす!
服部 絵理奈:122-7d10
DoubleCross : (122-7D10) → 122-34[1,4,10,4,4,1,10] → 88

服部 絵理奈:よしよし。
神崎 リサ:よかたよかたおかえりなさいー
GM:おかえりなさいませ。
高橋 健人:おかえりなさいー
GM:最後、PC1:神崎リサ。
GM:等倍ふりor倍ふり、いずれかを宣言し、バックトラックを敢行してください。
神崎 リサ:はいー等倍でゆきます!
神崎 リサ:114-7d10
DoubleCross : (114-7D10) → 114-42[3,10,4,10,2,6,7] → 72

神崎 リサ:ふー……
服部 絵理奈:おかえりー
GM:おかえりなさいませ、みなさま……。


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 Climax After……
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 ――4番シアター。

 ……。

 銃声の余韻も消え去って。
 あたりは奇妙なまでの静寂になっている。

 撃ち抜かれた少年と、撃った少女は。
 そのまま、その場で倒れ伏している……。
 
神崎 リサ:本来なら銃の反動で後ろに倒れ込むところを、足元の血氷が縫いとめたせいか。
神崎 リサ:今は前のめりに、銃を離さないまま春日の元へと倒れ込んでいる――

服部 絵理奈:「か、神崎さん!?」
高橋 健人:ぜえ、ぜえ、という息遣いが聴こえる。こっちもつれえ。ただ、倒れた2人に対して確認作業をしなくてはならない。
高橋 健人:――この確認作業さえ済めば、外に報せることもできる。の、足取りで、近づいてはみるが。
服部 絵理奈:シアターにはこの2人の他に支部員も倒れている。こんな温度の中寝たら命が危ない。

 狂気におかされていた支部員も、文字通り静止している。


高橋 健人:おきてるかー! 寝ると死ぬぞー!
服部 絵理奈:「……えーと、神崎さん……ベツレヘム、目標に向けて発砲、命中しました……」
服部 絵理奈:イヤーカフに向けて囁きつつ。
 
 イアーカフからは何にも応答がない……。
 

服部 絵理奈:「2人とも大丈夫ですかー!?」
高橋 健人:「しぶ、ちょう……神崎支部長」
高橋 健人:つとめて優しくというか、力が入らない手で肩を揺する。
神崎 リサ:「――……」
神崎 リサ:「んん……」
神崎 リサ:穏やかな振動にうっすらと瞼が震えて、ゆっくりと押し上げられる。


 ……流石に健人自身も意識が朦朧としている。ただ、これを完遂するまでは絶対に倒れるものか。
 息づかいと声を聞いて、一度は安堵する。
 

神崎 リサ:「たけ、と……」
高橋 健人:「…………意識はありますね」この際呼び間違いは聞かなったことにしよう。
睦月春日:「……ぅ……」
睦月春日:身じろいで、起きる。
睦月春日:周りを見る。自分の上に誰かいる。不思議そうにしている。
神崎 リサ:「ん……あれ……?」
神崎 リサ:寝ぼけているのか、ひどく身体と頭とが重く疲れているせいか。そういうことなのかもしれない。
高橋 健人:ぴし、と支部長の目の前で三本指を立てる。とっても初歩的な確認だ。「指が何本、立ってますか」
神崎 リサ:「……」眉間に皺。
神崎 リサ:「……さん、ぼん?」疑問形だった。
高橋 健人:「よくできました」肩を叩く。
神崎 リサ:「ん」なぜか満足気。ほめられるのは悪くない。
睦月春日:上にいる人を見る。
睦月春日:その上で、その人に肩をたたいている人を見る。
服部 絵理奈:2人が確認作業やってる間、他の4番シアターに寝っころがってる支部員をゆっさゆっさしてよう。
睦月春日:周りで静止している人を見て。
睦月春日:「……だ、れ……? あなな、たち……」
睦月春日:「ここ、は……?」
睦月春日:くしゅん。
睦月春日:「……さむい……」
高橋 健人:「…………」そういえば、と《領域》を拡大。館内を走査したいです。
GM:RC振ってくださいバックトラック後のダイスで。
高橋 健人:りょうかーい。ってことは初期値だね。
高橋 健人:(5+0)dx+4 〈RC〉判定
DoubleCross : (5R10+4[10]) → 8[1,1,4,6,8]+4 → 12

高橋 健人:エフェクト宣言:《針茉莉に降る》 / メジャーアクション
高橋 健人: →《地獄耳》+《成長促進》宣言
GM:んー……そう、だなあ。
高橋 健人:ごめん宣言忘れてた。というわけでハリマツリの華が咲く。

 うまく全容が、知覚ができない。
 厳寒のせいか、育たないらしい……。
 
高橋 健人:《ハリマツリ》――デュランタ。これも暖かい地方の華を模している。この厳寒のままでは、走査も上手に働かないのだろう。
神崎 リサ:「……!」
神崎 リサ:身体の下の身じろぎを感じて、がば、と身を起こそうと。

神崎 リサ:「春日っ!」
神崎 リサ:霞がかった頭が動き出す。一気に先程までの記憶が蘇ってきたらしい、慌てて撃った箇所を確かめようとしてみる。
神崎 リサ:「だ、大丈夫か? まだ痛むか?」
睦月春日:撃たれた傷口を見る、確かにうがたれてる。
睦月春日:「いたっ……」
神崎 リサ:痛みの声にあわわ、と周りを見渡した。あいにく、ここには傷を処置するものなど見当たらない。
 
 ゆさゆさされている支部員。
 こちらも、呼吸は正常だ。狂気も影すら消えている
 

服部 絵理奈:「おーきーてー、くーだーさーいー! 死にますよ!!」
服部 絵理奈:ゆさゆさしつつ耳元で叫んだ。
支部員:「ぅ……ん……もう、おなかいっぱい……むにゃ、むにゃ……」
高橋 健人:「……だめ、だ……」いよいよレネゲイドの力も不安定になってきた。揺らぐ視界、言葉が溶けていく。
神崎 リサ:「ごめん、もう少しだけ我慢してくれ。外に出たら必ず手当を、」
神崎 リサ:言いかけて、ふらりと傾ぐ気配にはたと振り向く。
服部 絵理奈:「ぅー……」
服部 絵理奈:起きない支部員にやきもきしつつ
服部 絵理奈:「さむ……い……」
睦月春日:「……さむい……」
高橋 健人:こっちは呼吸が正常じゃないよ。――という感じに血反吐を流してぐるぐるしてる。
高橋 健人:とりあえず支部員の方を見て、狂乱する気配がないとも視認しておくが。

GM:狂乱する気配どころか、冒されてたウィルスのかけらもないですね。

 どうやら、喰われてしまったらしい。
 周囲の存在に罹患した分も、すべて。


高橋 健人:語彙力の減ってきた人員。
神崎 リサ:「健人、お前、血が」

 今まで何度も極限の彼を見てきたはずが、こんなに消耗しきった姿を見るのは初めてで。
 身体を動かそうにも、ひどい疲労感と寒さとでなかなかいう事を聞いてくれない――


服部 絵理奈:「……私なにか暖かいもの探してきます!」ダッシュで4番シアターを出ますがよろしいか
GM:イイですが盤面切り替えしていいですか、絵里奈ちゃんの方。
服部 絵理奈:このシーンは退場扱いになるのかな? おkですよー
GM:いや盤面切り替え。
服部 絵理奈:はーい
神崎 リサ:はいー
高橋 健人:銃……
服部 絵理奈:あ
GM:<いまならもどれるぞー
服部 絵理奈:ちょっと待って銃回収させてー!?
服部 絵理奈:シアター出口まで行ったところでダッシュで戻ります!
服部 絵理奈:「神崎さーん! 銃返して下さい!」
神崎 リサ:「銃……?」
神崎 リサ:「……あ、ああ。これ、だな」思い出すまですこし、時間がかかった。
服部 絵理奈:「それ、返さないといけないモノなんです!」
高橋 健人:「…………ひ、とく……なら、……やっきょ……う……も……」
高橋 健人:言葉を拾うのが精一杯のようで、呼びかけ自体には応えることはない。
神崎 リサ:「薬莢か、たぶんこのあたりに……健人!」
高橋 健人:そして思念にて伝えることもない、いや、思考力すら幾ばくあるかないか。
服部 絵理奈:えーと、薬莢と銃を回収して改めてシアターを出よう……(すごすご
神崎 リサ:今度こそ奮い起こした足で地を蹴って――部下の身体を抱きとめた。
神崎 リサ:「っつ……ほら、絵里奈。銃だ」
服部 絵理奈:「ありがとうございます………。危うく忘れる所でした……」
高橋 健人:<でろーん
高橋 健人:という風にまあ、それでもこのエフェクトが解除されていない以上は意識を手放すことは己が許さない。
神崎 リサ:「あと、伝えてくれないか。これを貸してくれた奴に。『チャンスを与えてくれて感謝する』、って」
服部 絵理奈:「はい、分かりました……!」
神崎 リサ:「それと……お前もだ。ありがとう、絵里奈。あたしたちのために」
神崎 リサ:「無茶な橋を、渡ってくれて。こんなところまでついて来てくれて」
神崎 リサ:「あたしと春日にチャンスをくれて、ありがとう」
服部 絵理奈:「いえ……私は……むしろ謝る方です。皆に迷惑かけて、心配もかけさせちゃって……」
神崎 リサ:「迷惑? 心配? そんなの、今までお前からもらったものに比べたらちっぽけなもんだ」
高橋 健人:「……………………、」
高橋 健人:『――――』

 思考のノイズと思しきもの。微弱な意思。
 何か両者に伝えたいようだが、それも吐いては消える白い息のように消えた。


高橋 健人:かっくりと、糸が切れた人形のように。
高橋 健人:ただ、死んではいない。積み重ねていった諸々の疲弊が、ここにきて重くのしかかって、瞼に蓋をおろしただけ。

神崎 リサ:「お前が来てくれるのが毎日待ち遠しかった。何を持ってきてくれるのか、今日は何を話してくれるのか。それだけで、あたしは嬉しかったんだ」
服部 絵理奈:「神崎……さん……。そう面と向かって言われると、照れますね……」
服部 絵理奈:「それじゃ、私暖かいもの探してきます!」
神崎 リサ:「ああ、頼んだ……」
服部 絵理奈:そう言って銃を片手にシアターを出るのだった……
高橋 健人:すでに意識は沈殿している。
神崎 リサ:こっちもたぶん限界だ! ずるずる健人くん抱えたまま膝をついて、朦朧と……。

 4番シアターを出れば、重い扉が閉まる。
 その瞬間、その扉が凍りつく。

 三叉路の突き当りの壁に、場違いにきれいな白い紙が貼られている。
 タイプライターで撃たれたようなアンティークな書体で、何かが書いてある。

 【Come to the library room】

 英文で『資料室までこい』。

 英文ならばあるはずのピリオド部分。
 その部分に、ピリオドの代わりに、トランプのババのカードが刺さってる。
 
服部 絵理奈:「かむ、とぅ、ざ、ライブラリー、ルーム……」
服部 絵理奈:この状況で動ける人間……は1人しか思い当たらない。が――

服部 絵理奈:「行くしかない、よねぇ……」
服部 絵理奈:どちらにしろまた逢わないといけない相手だろう。まずは資料室へと。


 背にすると、紙もカードも消え去った。
 
服部 絵理奈:それに気づく由もなく、資料室への道をゆく……。


 通るさなかに見る光景。
 狂気の表情で凍った人々は、たしかにそのままだけれども。
 だけど、あのいやなウィルスの感触はない。

 だが、外へ出る扉や窓、別の部屋への扉は完全に凍りついている。
 

服部 絵理奈:「給湯室のドアも凍ってる……!? どうしよう……」
服部 絵理奈:とりあえず後で考えよう。そう決めて資料室のドアを開ける――


 ――資料室。

 
 ギィ――。
 開けたとたん、一段と凍える空気が逃げ出してくる。

服部 絵理奈:「(………さ、さむ!?)」
 
 資料室中央で、何か1冊の本を抱えた状態で待っている。
 絵里ちゃんが来ると、顔を上げる。

 ゆっくりと、残る手で絵里ちゃんのほうへ手を出す――
 

服部 絵理奈:「やがみ、さん……」
服部 絵理奈:手を出されると思わず半歩下がる。
矢神春人:「……」
矢神春人:黙って、手を出している。
服部 絵理奈:「え、と……」
服部 絵理奈:少し逡巡したのち、かじかむ手で銃と薬莢を矢神氏の手へと。
服部 絵理奈:「ありがとう、ございました」
矢神春人:受け取って、確認する。
服部 絵理奈:深々と頭を下げる。

 今までわりとしゃべってたはずなのに、一切口を利かない。
 ――正直、こわい雰囲気だ。


矢神春人:銃と薬莢を確認すると。そのまま――手が飲み込む。
矢神春人:「……あまり」

 やっと口を開く。
 傍らには、黒い帳簿。UGNの資料室にある冊子のひとつ。いわゆる“手配書”、ビンゴブック。
 

矢神春人:「あまりこういうことは、しないんだけれどさ」
服部 絵理奈:「は、はい……?」
矢神春人:「粗忽を通りすぎて、おろかだったものだから」
服部 絵理奈:雰囲気に気圧されもう半歩後ずさる
矢神春人:「……ひとつ、おしおきだ」
服部 絵理奈:「おしおき……」瞳を伏せる。目が泳ぐ。
 
 そういうと、帳簿に一枚、トランプのババを挟む。
 その上で、おもむろに絵里ちゃんへとその帳簿を投げ渡す。
 

服部 絵理奈:「……へ?」ばふ、と帳簿を思わずキャッチ。
矢神春人:「ひらけ、だまってだ」
服部 絵理奈:「……」指示に従い、帳簿を開きます。

 ババがはさんでいるページには、FHエージェントの資料ページ。
 そこには、目の前の青年の写真と、いくつものデータがあって。

 「THE END」
 そう、かいてある。
 
服部 絵理奈:目を丸くして目の前の青年と帳簿のページを見比べている。
矢神春人:いびつな笑み。

 トランプのババが、その場で消え去る。
 

矢神春人:「……これで、しおきをすますだけ」
矢神春人:「マシだと、おもっていただきたいね」
服部 絵理奈:「……!」歯の根がかたかたと震える。寒さのためだけじゃない。目の前の青年の言葉にこくこくと頷くしかなかった。
矢神春人:「……ふぅ」
矢神春人:いちど目を抑える。
矢神春人:「じっさい問題、草にはお世辞に向かなさそうだね。キミの性格だと」
矢神春人:雰囲気が今までのそれに戻ってる、あいまいなふんわり雰囲気。
矢神春人:「それを見て、吹聴するか否かはキミにまかせるよ」
矢神春人:「なんならこの場所の破砕とかの原因のそのすべてを、俺におっかぶせればラクだろうしね。処理として、UGNとしては」
矢神春人:「ただ」
矢神春人:「それをやれば“知ったキミがどうなるか”は」
矢神春人:「――お察しください。リスクは負っていただくよ」
矢神春人:やれやれ、本当は言う予定はなかったんだけどな……と、ぼやいている。
服部 絵理奈:「……それが、『おしおき』ですか」
矢神春人:「口に戸は立てられない」
矢神春人:「禁忌をかけたところでキミが、ジェルマンにだだもれにしていたようにね」
服部 絵理奈:「ぅ……」
矢神春人:「だがその内容次第では」
矢神春人:「文字通り、ジ・エンド」
矢神春人:「見抜かれれば、瞬間キミがやられるだけのリスクじゃない」
矢神春人:「キミの家族・友人・居場所、ぜんぶの歯車が狂い壊れ2度と戻らないだってふしぎじゃない」
矢神春人:「そうだな……」
矢神春人:「たとえばこの場で、この俺が」
矢神春人:「今すぐ建物のすべてを氷で閉ざしてつぶせば、どうなると思う?」
服部 絵理奈:「…………」
服部 絵理奈:涙目で首をふるふると横に振る……それしかできなかった……
矢神春人:「別に……やつあたりでやってもいいっちゃいいんだけど……」
矢神春人:「……依頼人(クライアント)は、のぞんでないしな……」
服部 絵理奈:不安そうな瞳で矢神氏、もといジ・エンドの表情を窺っている……
矢神春人:「さて、と」首に手を当ててこきこき、不安そうな瞳を意に介さず。
矢神春人:「……ああ」
矢神春人:「方々見たけれど、罹患者が0になってた」
矢神春人:「おもしろいね、あれだけのにあてるとこうなるのか」
矢神春人:「ので、本来はもう。その意味合いでは俺はエフェクトを維持しなくていいんだけれど」
矢神春人:「……こんどは俺が、ぶじに離脱しないと しねる ので」
矢神春人:「しばらく凍っていただきます」
服部 絵理奈:「良かった……って、凍ったのはそのままなんですね……」
服部 絵理奈:「あの……せめて給湯室の扉だけは溶かしtへくちっ……貰えませんか……」
矢神春人:「とかしても」
矢神春人:「水道管、凍ってるけど……?」
服部 絵理奈:「……あ」
矢神春人:「むだ、です」
矢神春人:「そこはあきらめてください」
服部 絵理奈:「は、はい……」
矢神春人:「まあ、しにはしない、しには……」
矢神春人:へらへらとわらって。
矢神春人:「では、これで」

 そういうと、資料室から離脱する。
 すれ違いざま、――軽く耳に触れると、イアーカフが消えた。
 

服部 絵理奈:「……あ、そうだ」
服部 絵理奈:すれ違いざまに一言言えますかね?
GM:どうぞー。
服部 絵理奈:「神崎さん……ええと、ベツレヘムと言った方がわかりやすいでしょうか? 彼女から、伝言が。……聞いてるとは思いますけど」
服部 絵理奈:「『チャンスを与えてくれて感謝する』だそうです」
服部 絵理奈:以上でっす!
矢神春人:「どう、いたしまして」


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 Ending Scene:1
 Side:Hayato
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 ――先日の被害状況を確認する少年の姿。

高橋 健人:一応、マスクはしている。……厳寒続き、そして能力行使などによる疲労、今回の事件の一部の後始末。
高橋 健人:様々な要因が重なって、欠員も続く中虚しく年始めが過ぎようとしている――

 上部への連絡はこうである。

 『FHの事故から発生したウィルスにより、支部内や近辺にパンデミックが発生。
  尚、研究所から流出したアンチウィルスによって処理は完了している。
  研究所自体は未だ発見ならず。アンチウィルス自体もウィルスを処理する際に消失。
  構造の解析は難しいものと判断し、ウィルスの被害もこれ以上ないため打ち止めとする。

  ならびに行方不明事件も一部被害者の減少が見込めたが、解決していない。
  引き続き研究所および行方不明事件については調査を続行する』

 『今回のウィルスについての件と行方不明事件については関連性があったものの、
  所属不明やFHのジャームなどによる無差別事件もあり、他の事件も絡んでいる可能性がある。
  N市支部の欠員が著しく、援助を頼みたい』
 

高橋 健人:――健人は叩いていたキーボードの手を止める。その顔は正月太りなどという単語とは対極の位置に居た。
高橋 健人:本来であれば、失態を犯した人間に叱責をするものの。そういう立場でもなく、またそういったいとまもない。

 “ジ・エンド”の存在は知っていた。だが、言及は極力控えた。自分が生きているのも――生かされていると訂正しよう。
 自分のように手足であり裏方でありながら、ともすれば支部長のように上に立てる存在が軽々と顔を出してきた。
 あれとやり合わなかっただけ、物種があったと信じたい。
 

高橋 健人:そして昨日も。“UGNチルドレンの失踪”が続いている。
高橋 健人:同期の顔が減るのは慣れたものだが、こうしてスパンが短いと、とどのつまり、仕事量が増えていく
高橋 健人:底なし沼のように降り積もっている資料やデータの数を見て、どこのタイミングで寝るかすら考える余裕もなかった。
高橋 健人:「(支部長に手際が悪いと怒られるか……どうか……いや……増員を頼むか……)」


 思考力が落ちていく。寝ないということは、それだけ効率が落ちるということだ。


 ……ああこれは、免疫機能を弄る能力(エフェクト)を教えてもらおう。次に霧谷支部長に会ったときとか。
 そんなこんなと思考を連ねている内に、とうとう健人は月内にして3度目の気絶に陥った。

 まる
 



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 Ending Scene:2
 Side:Erina
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 N市公立高校、放課後の2Cの教室にて――


服部 絵理奈:断熱素材の弁当袋を教室の隅で広げる絵理奈の姿があった。
服部 絵理奈:「真花ちゃーん、リクエストの品、作って来たよー!」
綾瀬真花:「え、ほんと?」
綾瀬真花:きゃいのきゃいの。
服部 絵理奈:弁当袋から取り出したるは小さめのタッパー。中には紅色のキューブ状の物体。もといイチゴ味のギモーヴである。
服部 絵理奈:かぱっ、とタッパーを開けて持参してきたフォークで1つ刺し。
服部 絵理奈:「はい、あーん♪」
綾瀬真花:あーんとひな口を開ける。
服部 絵理奈:真花ちゃんのお口にシュウウウウウッ! エキサイティン!
綾瀬真花:「んーっ、おいしーv」
綾瀬真花:もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ。
服部 絵理奈:「良かったー、作った甲斐があったよー!」
綾瀬真花:「んー、あまいものはいやされるよねーっ」
綾瀬真花:「うんうんっ」
服部 絵理奈:「うんうんっ。作ってると砂糖とかバターの量みて真顔になるけどそれはそれだよね!」
綾瀬真花:「いいんだよ寒いんだから、あったかくしないとさっ」
服部 絵理奈:「そーだねー、でも冬休みで体重増えちゃったから筋トレしなきゃ……」
綾瀬真花:「筋トレ? なにしてるの?」
綾瀬真花:「高橋君の気を引くのに、胸筋トレーニングとか?」
服部 絵理奈:ぶっ、と噴き出す
服部 絵理奈:「高橋くんは関係ないよー!? ダイエットのためだよ!? 軽いストレッチと腹筋背筋腕立てとかとか」
綾瀬真花:「えー、でも」
綾瀬真花:「絵里ちゃんが高橋君といっしょに、夜の繁華街に消えてったってきいたけどなあ……?」
服部 絵理奈:内心冷や汗。
服部 絵理奈:「えぇ……どこ情報なのぉ……」
綾瀬真花:Lineだす。
綾瀬真花:もちろん出所はお察しください。
服部 絵理奈:机につっぷす。
服部 絵理奈:「う、うん……わかってた、け、ど……」
服部 絵理奈:「あ、そだ、私この後用事あるんだ!」
綾瀬真花:「あ、そうなんだ」
綾瀬真花:「高橋君とデートかなー」によによによによ。
服部 絵理奈:「うん、そのタッパーはそのままどうぞ……って違うってばー!?」
服部 絵理奈:「それじゃ、また明日ね!」
綾瀬真花:「ん、ばいばーい」
服部 絵理奈:「ばいばーい!」
服部 絵理奈:コートを着込み、教室を出て、目指すは繁華街――の、キネマ・アルバ。


 ――ミニシアター、キネマ・アルバ。

 例によって。
 アラン・スミシ—とチケット売り場で伝える。


スタッフ:はいどうぞ、と以前のように笑顔のスタッフがお出迎え。いつも通り通してもらえました。
服部 絵理奈:「館長室館長室……っと」

 今日は支部長こと神崎リサからの呼び出しである。
 用件は……まぁ、あの支部全凍事件前後のあれやこれやであることは想像に難くない。


高橋 健人:基本的に後処理とかそういう話の通達だとおもうょ……?
服部 絵理奈:コンコン、と館長室のドアをノックする。
服部 絵理奈:「神崎さん、いらっしゃいますかー?」
神崎 リサ:「絵里奈か、入ってくれ」中から声が返ってくる。
服部 絵理奈:「失礼しまーす」入室。手にはギモーヴ入りのタッパーである
服部 絵理奈:「え、と、神崎さん、今日の呼び出しって……」
服部 絵理奈:おずおずと切り出す。がそこで言葉は止まる。まるで自分から言い出すのを恐れているように。
神崎 リサ:「うん。悪いな、呼びつけたりして」入ってきたのを見て山積み書類をちょっと横にずらし。
神崎 リサ:「呼び出しというかまあ……後処理の話だな。ようやくここも機能が復活したし、色々上に報告のためにまとめなきゃいけなかったりしてな」
服部 絵理奈:「あ、はい……そうです、よね……」
神崎 リサ:「それで今回協力してくれたイリーガル……お前の方の話も、って事で来てもらったんだ。あとはその後の体調経過の確認とかも含めてな」
神崎 リサ:そういう本人もまだ指先が布に捲かれたり絆創膏があったりする。凍傷の名残、かもしれない。
服部 絵理奈:「わたしは……あの時の傷は凍傷くらいで、あとは完治しています。支部の皆さんは?」
神崎 リサ:「うん……あの寒さや傷だったりで一時危なかった奴もいたが……なんとか皆無事だ」
服部 絵理奈:「そうですか……」
服部 絵理奈:ちょっと安堵したような表情を見せる。
神崎 リサ:ふう、とため息。もし1人でも死んでたら、と思うと今でも胃がずんと重くなる。
高橋 健人:じゃあそろそろお邪魔しましょうか。ノックしてもしもーし。「――神崎支部長、“鮮緑の支柱”です」
神崎 リサ:「あとまだ長引いてるのは健人か……あの後熱出して、っと」噂をすれば影。
神崎 リサ:「ああ、入ってくれ」
高橋 健人:ドアノブを捻り、入室する動作までに発生した音量は極めて低い。

 
 ――なんともまあ、心もとない部下の姿があった。
 


 けほ、と軽い咳。
 2人の目の前に居る健人は、倒れた時より幾分マシな顔色はしていた。
 ここ一週間学校に通っていなかったのは、仕事もそうだが事実ぶっ倒れたこともある。

 そんな具合だ。
 

服部 絵理奈:「た、高橋くん? 熱出した……って、大丈夫? 御隣の家にも居なかったみたいだし……」
高橋 健人:「……あれは、仮住まいのようなものですし……それに、UGNの、調査に伴う経過報告――」書類を持って、足取りは重く。
神崎 リサ:「……ちゃんと休んでたんだろうな?」心配と疑惑の入り混じった目。じー。
高橋 健人:「事後処理に――体調不良、支部長にはお手を煩わせてしまい……」
高橋 健人:どこか近くに椅子があるなら、遠慮がちに腰を下ろすだろう。

神崎 リサ:「そんな事はいい、体調はもういいのか?」すぐそばに応接用のソファならある。

 いつも着込んでいた制服はなく、整えていた頭もボサボサとしていて、どことなく胡乱だ。休んだのは事実。
 それ以上に累積疲労値が重かっただけの話。
 

高橋 健人:「ええ、ええ、大丈夫ですよ、このような経験、…………。昔なら、もう少しありましたし」
服部 絵理奈:大丈夫かなぁ、って目で支部長と高橋くんを交互に見やる。
神崎 リサ:「あったのか……」
神崎 リサ:頭抱えたいけど、自分の差配のせいもあるので強くは言えない……。

高橋 健人:絵理奈と目が合うと、会釈する。それから、一瞬だけ見定めるような視線。
高橋 健人:「…………それより、揃っておりますね。事前に通達したかと存じますが、」
高橋 健人:と僅かな咳を交えて健人は絵理奈にも腰を下ろすよう促す。

服部 絵理奈:「あ、うん。神崎さんに呼び出されて……」
服部 絵理奈:すとん、とソファに座る。

 曰く、『事後処理に纏わる3人だけでの会議』。
 もちろん通常の報告も兼ねていたが、これには絵理奈も同席しなければならない。


高橋 健人:「左様ですか。宜しいですね」
服部 絵理奈:こくり、と頷く
神崎 リサ:体調のせい、だけとは言い難い雰囲気を察して、こちらもちょっと居住まいを直し。ひとまる見守る体勢のよう。
高橋 健人:再び立ち上がり、ドアノブの施錠。確認して、元の位置に座り込む。
高橋 健人:それから《針茉莉》が周囲を走査する。「イリーガルに対する案件なので、立ち入らぬよう」とは支部員に伝えてあるが。
神崎 リサ:「……健人?」
神崎 リサ:事後処理会議にしては念入れ方が、とどこか異常を察したようで。眉を寄せる。
高橋 健人:「服部絵理奈さん。貴女が申し開きをする必要はありませんね」

 開口一番。
 それは、叱責や批判とも言い難く。申し訳ない、というには今一そういった色が足りない。


服部 絵理奈:「は、はぃぃ……」
服部 絵理奈:俯き、背を丸める。

高橋 健人:『さて、』「けほ」『手短に行きましょう』

 かぶりを振って、咳払い。
 針茉莉に加わり、管丁字の花々が邪魔にならない程度の香りを放っている。


高橋 健人:『約束を守るのであれば、小中学生でも可能です』
高橋 健人:『相手の言いつけを聞いて尚、幾つもの約束を破りました。いいですね?』
高橋 健人:細く長く、息をつく。

 あの極寒の最中、意識が途絶える手前に彼が発した思念。
 『相手の存在は漏らすな』という必死の言葉は、届かなかった。
 何度となく失態を犯したのは言うまでもないだろう。“相手も理解っている”。
 

高橋 健人:――多分、感情などは介在していないのだろう。
高橋 健人:ただ容態が安定しきっていないことに起因する、ゆらぎのような気配。

服部 絵理奈:「……はい」
服部 絵理奈:しゅん、と小さくなっている……。

『1に。取引は相手が確認・完了手続きするまで約束事項を遵守すること。
 2に。それを逸し危険を冒すというからには、得られる結果は元より周囲への負荷を踏まえておくこと。
 3に。反故にすれば、“この世界”では法の裁きなどという甘いものではなく、実力行使がある場合も考慮すること』

高橋 健人:『今回のことは、彼は、』「けほ」『これからも我々のみの話に留めておくこと』
高橋 健人:『余程のことがない限り、金輪際漏らしてはなりません。……以上です。何かご質問は?』  

服部 絵理奈:「分かり……ました……」
服部 絵理奈:何かご質問は、という問いには首を横に振る。
高橋 健人:支部長にもまた、視線をくれる。
高橋 健人:このことに対し、異議や申し立てはないか。場を仕切る者として、何か一言はないか。

神崎 リサ:「…………」
神崎 リサ:青い顔。ようやく自分があの時とった行動の重大さ、取り返しのつかなさ、に思い至ったようで。

高橋 健人:「両者特にないようなので。ここからは自分の意見になるので、流し聞きで構いません」視線を外した。
高橋 健人:『貴女――いや、我々が生きてここにいる。この事実もまた、あの時のように“幸運”でしかありません』
高橋 健人:『大方、相手にすら呆れられたでしょう? 銃を返却して尚、貴女は“始末”されていない』

高橋 健人:あの時、というのは、絵理奈がオーヴァードとして目覚め、ジャーム化せずに安定した状態になれたことだ。
服部 絵理奈:「はい……」
服部 絵理奈:どんどん縮こまる絵理奈。いっそ貝になりたい。
高橋 健人:「……流石に貴女に過度な期待をし過ぎました」
高橋 健人:「これはフォローしきれなかった自分の責任でもあるといえます」
高橋 健人:「――とはいえ、それにも限度がある」

 鼻を啜る仕草。目元は暗く、感情のない声はどうしても傍目からすれば、静かに怒っている風に見えるかもしれない。

高橋 健人:「確かに《イリーガル》として手伝って欲しい、と自分も懇願致しました」
高橋 健人:「ただ、命令や強制ではないのは、責任や命が掛かっているからこそ」

 オーヴァード存在であって尚、指針がないのも人によっては多大な不安になるだろう。
 そのことだけであれば、UGNもイリーガルとして契約せずフォローはできる。
 故に、あくまで“お願いしただけ”。
 

高橋 健人:「普通のアルバイトより賃金もいいでしょう。当たり前です」
高橋 健人:「それだけ責任も伴いますし、けほ、普通の会社であれ貴女の行動1つがここを揺るがします」
高橋 健人:「最悪、命を落とす」
高橋 健人:「イリーガル、チルドレンやエージェント、支部長。いかなる立場でも不変である事実です」

服部 絵理奈:俯き、こくこくと頷く。
高橋 健人:「現に貴女の怯えよう。……もう、自分が言及することもありません」
高橋 健人:「人には向き不向きがある。適材、けほ、適所、本来であれば自分が担うべきだった役」
高橋 健人:「なるべく間諜などといった任務からは外してもらうよう、こちらも配慮します」

 健人曰く、自分にも幾つか手落ちがある。

 危険である場所に行くなら、今一度警告するべきであった。
 ウィルスの事を鑑みて、先んじて支部に連れて行くべきであった。
 相手がFHの猛者とはいえ、考え方ややり口が一様に似ているとは限らない、など。

 これらはすべて後の話にはなるが、健人自身も完璧な仕事はこなせていない。
 常にそう考えて、洗いざらい失点は話しておく。
 若輩者だろうと、ベテランだろうと。皆失敗はつきものだと知っていても、反省しないことには変わらない。
 

 普段であれば絵里奈1人のせいでは、などと立ち上がる所だったのかもしれない。
 しかし今回は事が重大すぎた、という事が健人の口ぶりで身に染みる。

 もしかしなくても、今こうして顔を合わせられなかった可能性の方が高かっただろう。幸運に恵まれ、いや見逃され。
 ともあれ、3人顔を揃えている――


高橋 健人:『今回は相手が寛容だったこともあります』
高橋 健人:『ですが自分の考える』「けほ」
高橋 健人:『FHとは大方、“ディアボロス”のように徹頭徹尾、余分を持たせるような真似はしない』
高橋 健人:『欲望に殉じる以上、常に最適解に則って行動に当たります』
高橋 健人:『ここでいう最適解、“同じ力を持った俺でもあれば”』「けほ」『貴女を間諜にして』
高橋 健人:『情報漏えいした時点で――

 有 無 を 言 わ さ ず の ち ほ ど 殺 し て い ま し た よ 。

 ――そして最終的に保菌者ごとUGN支部を屠る』

服部 絵理奈:「ひっ……」
服部 絵理奈:小さく声を上げ、更に縮こまる。

 『それが楽ですから』。と、気軽なようでたっぷりの重みを含めた健人の淡々とした物言い。
 コンプライアンス――法令遵守。企業の基本ルール。この場合は、彼の始末屋としての情報を守ることに繋がる。形式のみとはいえ。
 情報を漏らすような真似をしても、絵理奈が生きていたことにはただただ、幸運だったという帰結。
 

高橋 健人:「出過ぎた物言い、失礼しました。貴女を脅すような真似にはなりますが。……事が事でしたので」
服部 絵理奈:「……」

 あまり、“一般人から成り立て”になった人間に対し言うような警告ではない、というのは、空気を読みにくい健人も理解している。
 だが、これが今後も続くようであれば――覚悟を捨てるような結論に至るなら。それはそれで、構わない。
 何分、“命に直結する話”なのだ。
 

服部 絵理奈:健人が語る事にぐうの音も出ない。
神崎 リサ:『……あたしたちは、チルドレンだ。小さい頃から力の使い方を叩き込まれ、そうした場でいかに振舞わなければならないか、を教え込まされてきた。だが絵里奈、お前はまだこの世界に入って日が浅い』
神崎 リサ:『それこそ映画やテレビでしか見なかったような世界にすぐ順応しろ、なんて無茶を言うつもりはない』
神崎 リサ:『……が、今回でよくわかったろう。自らの身の振り方ひとつで、結果がどうなってしまうのか。そしてその影響を受けるのは自分だけじゃないって事が』
神崎 リサ:自らに言い聞かせるよう、念じる。当然すべて自分にも当てはまる事柄、でもあり。
服部 絵理奈:『はい……。自分の愚かさからの行動で、他の人も巻き込んでしまうんだ、って……』
高橋 健人:『ただ、それを以てしても、貴女は結果を出してくれました』
高橋 健人:『貴女が抗体を持って、ここに来なければ、自分たちは死んでいた』
高橋 健人:『その結果は賞賛したい。多くの命を危険に晒したと同時に、救ったのですから』

 笑ったかもしれない。笑おうと、励まそうと、したのかもしれない。
 僅かな機微は、感知に長けたものでなければ――それこそ、健人をよく知る者でなければ察知しづらい。
 

服部 絵理奈:『あれだけのことをやらかしておいて、たくさんの人に迷惑をかけておいて』
服部 絵理奈:「……あの。私はここに居ないほうが、良いんでしょうか?」

高橋 健人:「言いましたね。“考える”ことが貴女の次に繋がると」
服部 絵理奈:「自分で、考える……」
高橋 健人:「この経験を得て、貴女が進路を変えるかどうかは、支部長のご判断もありますが」
高橋 健人:「基本的には、貴女の意思を、尊重したいと自分は考えております」

 健人のその淡い心の気配がはたして絵里奈に伝わったかはわからない。ただ、ふふ、と口の端があがった。
 彼もまた、絵里奈の身を心配していたはずなのは確かだと思っていたから。


神崎 リサ:「そう、だな。これでもうイリーガルをやめる、というのもお前が取れる選択のひとつだが……」
神崎 リサ:「……支部長として、ならば。今は人手がとにかく足りない」
神崎 リサ:「猫の手も借りたい状態で抜けられるのは、正直困る」

服部 絵理奈:「そう、ですよね……」
神崎 リサ:「……だが神崎リサとして。あたしもお前の意志を尊重したい」
神崎 リサ:「こんな橋をまた渡らせたいかって言えば、答えはノーだ」


 立場と個人しての意見がせめぎ合っているようで、なかなかうまく言葉として伝えられない。
 引き止めたいのかやめさせたいのか、答えは形を成してくれない。


服部 絵理奈:支部長の言葉には頷きつつ。
服部 絵理奈:「私の身の振り方……少し1人で考える時間を頂けませんか?」

服部 絵理奈:もうあんな橋は渡りたくないでござる。
高橋 健人:4.現実は非情である
服部 絵理奈:デスヨネー(遠い目
神崎 リサ:「……そうだな。ゆっくり考えてみてくれ」

 健人はどちらでもかまわない。
 というか、何にせよ人の出入りが激しい業界だし、余程でない限り思い入れは持たない精神構造になってるから。


服部 絵理奈:「でも。今日はここに来た以上、お手伝いさせてください!」
高橋 健人:「そうですか」
高橋 健人:淡々とした空気の色が、変化していることには支部長のみぞが気づくだろう。

高橋 健人:そしてリサにも、あらためて視線を投げかける。
神崎 リサ:「そうか……うん、助かる。ありがとう絵里奈」
服部 絵理奈:持ってきたギモーヴ入りのタッパーを開け。1切れ小さなフォークで摘み取り。
高橋 健人:「神崎支部長、貴方にも自分から少しありますが。1つこちらも意見としてお聞き頂く」
服部 絵理奈:「はい高橋くん、あーん!」空気読み人知らずが通るぜ!
神崎 リサ:タッパーに目が引き寄せられそうなのをこらえて、なんだ、と向きなおる。あまいものはあとで!
高橋 健人:居住まいを正そうとした所に横槍が入る。逡巡、この間のように手にとって食べれるようなものではないと理解した。
服部 絵理奈:「あっごめん、後での方が良い?」ギモーヴ片手に固まっている。
高橋 健人:――頭を下げ、ネックウォーマーをすこしずり下げて、速やかにぱくり。
高橋 健人:即飲み込んだ。「美味しいですよ、ごちそうさまです」。という感想。こいつもある意味空気読めない。
服部 絵理奈:「ふふっ、ありがと!」健人の淡白な感想にも慣れたようで。そっと微笑んだ。
神崎 リサ:一瞬目の前で起きた事に固まり。からの思わずによによ。
高橋 健人:「……支部長――は、けほ。情報管理に関しては同じことを言う羽目になるので」

 同じく脛に傷を抱えているだろうリサに対して、健人は一転してすまなさそうな面持ちになっている。
 もしかせずとも、健人は支部長に関してはやや甘いのだろう。“見えない耳や尾”が垂れ下がる思いだ。
 それだけ立場に見合った努力や結果は出してきたのだから、という話にもなる。

 ――そこを内省せず、立場にあぐらを掻く人間であれば、この件をいかようにも上に伝えることにもなる。
 

神崎 リサ:と、表情を引き締めなおした。

 自らも当然何か言われなければならないとは思っていた、のだけど。
 しおれていく部下の様子にあれ、と内心傾ぎ。


高橋 健人:「…………」
高橋 健人:「貴方は結果として保菌者を保護し、管理する。という最も危険な位置に居ました」
高橋 健人:「それだけでも、十分なことです。最悪、相手を刺激して感染速度が早まったらどうしようもなかった」

 リサの経歴については訊かない。調べれば仔細も出るのだろうし、本人からも幾つか証言はある。
 それでもこういったものは本人のプライバシーに関わるので、極力触れないことにしている。
 ただ、自分と似た境遇であるということは確信できる域だ。

高橋 健人:「それでも神経質(デリケート)であった彼を、辛抱強く看て下さったこともあります」
高橋 健人:「けほ、そして今後の後始末も大変かと存じますので」
高橋 健人:「くれぐれも、お大事にして下さい」

 ――最後の言葉は、端からすれば「お前が言うな」と全力でリサには殴られそうなものである。
 本来であれば、自分より上の立場の人間が言うべき言葉だ。
 その上すら人員不足、事務ですら猫の手を借りたい状態。

 チルドレンの立場だろうと、提言しなければ誰が言うのか。
 健人は、熱で赤らんだ頬を自らの冷え切った手で制した。
 

神崎 リサ:「……」

 そっと目を伏せる。
 また怒ってくれないんだな、と思わず浮かびかけたけれど、それ以上に健人の気遣いがそこかしこに感じられて。

 一見すれば冷淡だの、仕事中毒者だの、心がないように見られ取られがちなこの部下。
 でもそんな事はない。今回だって彼なりに絵里奈の身を案じ、春日の身も案じてくれた。助けてくれた。
 見限られてもしょうがないだろうに、今もこうして提言という形で支えてくれる。


神崎 リサ:「……うん、ありがとう。健人もよく働いてくれた。そのおかげでこんな結果に落ち着けたんだ」
高橋 健人:「――――」

 自分のことは否定しかけたが、それは事実に反する。自分の行為に対して自らも評価するのが、正しい在り方。
 自他問わず、常に俯瞰した見方で捉えるのが調査員の本懐だという考えがあった。
 
高橋 健人:「お褒めに預かり、光栄です」

神崎 リサ:「――だからお前ももっと自分の身を大事にしてくれ。この先お前なしじゃ、乗り越えられる気がしない」
高橋 健人:「それは、」再び視線を上げて「困ります」。
神崎 リサ:いや、仕事全振りするつもりじゃあないぞ、とそこは否定しておく。
高橋 健人:「自分が居なくなろうと、貴方がここを護って頂かなければ」

 仕事自体に関しては、もちろん裁量を自分でもきっちり管理しろと散々言われてきた。健人もそうしたい。
 だが、これ以上に過酷な状況下、人も次々消えていく――中で常に全力を要求されてきた彼にとってみればむずかしい。
 「自己管理に関しては善処する」と返答した。

 平時のここは、“訓練所”に居た頃よりはマシなほうだ。待遇のことも、仲間のことも。上のことも。
 そう簡単に命を投げ出すような環境ではない。健人も、弁えている。
 

神崎 リサ:なんでこっちに話が飛んできたんだとぎょっとするも。
神崎 リサ:「……そうだなあ、あたしが守らないと。か」
神崎 リサ:何度となく聞かされたであろう「善処する」、にはもう諦め顔かもしれない。その一言で変わってくれれば医務室に放り込む手間も省けるのだが……。
高橋 健人:「自分は、俺は神崎支部長――皆を支え、世界を守る一助になる。そのために訓練された」
高橋 健人:「貴方はその中でも大きい柱の1つ」
高橋 健人:「自分が居なくても全く立ち行かぬようにならないことは、常にお考え頂ければと」
高橋 健人:「自分も、その為に命を無闇に投げ出すことは致しません」


 息切れ気味のようだ。
 頭を少し下げ、机上を見る気配。色の着いた四角い菓子が、並んでいる。
 その菓子に注視せず、ぼうっと視線を落としている。


服部 絵理奈:「……高橋くん、本当に大丈夫?」
服部 絵理奈:不安げに健人の表情を窺っている。
高橋 健人:「こうして話をできる程度には、問題ないです」長話も過ぎたことだ、多少は疲れもあるが。
神崎 リサ:「……」

 どこか不満げ。
 しかしこんな界隈の上に立つ以上、そういった事は何度となく見てきてもいる。
 先の事件で命を落としたホワイトハンドの部下も、事後処理が行われ、すでに後任者などの手続きが済んだはず。

 とはいえ、今はこれ以上意見をぶつける時ではない。まだまだ万全ではない姿と赤い顔とを眺めて、頷いておいた。


服部 絵理奈:「……神崎さん、今の高橋くんは、休むのが一番の仕事ですよね?」
神崎 リサ:「その通りだ、絵里奈」
神崎 リサ:「お前、どう見ても熱ぶりかえしてるだろう」すっ、とおでこに手をあててみる。
高橋 健人:ぽあー。ぽかぽか。
服部 絵理奈:「支部長の令も出ました。神妙にお縄につくがいいー」
高橋 健人:「………………」異論はない。
服部 絵理奈:などと言いつつハヤ公を俵担ぎします(2度目
神崎 リサ:>2回目<
神崎 リサ:さすがに目の前で担がれるとびっくりするぞ! ぱちぱち。
高橋 健人:「あ…………」担がれることに抵抗はあったが、果たして非情な肉体対決で勝てるか。それは否。
服部 絵理奈:「それじゃあ、医務室まで送ってくるのでっ!」
神崎 リサ:「よし連行だ。高橋健人、今日はそのまま安静の任を言いつける」
GM:ベッドに連行だー
高橋 健人:「かしこまりました……」
高橋 健人:もうなにもかも。抵抗を諦め、まな板の上の鯉になったのは今度は彼だ。
服部 絵理奈:「あ、支部長ギモーヴ食べ過ぎないで下さいねー! それみんなの分なんですからー!」
服部 絵理奈:などと言いつつ医務室の方角へ消えていく絵理奈であった、まる。
神崎 リサ:「あ、ああ……あんまり揺すってやらないようにな」

 そんな背中を見送る支部長であった。
 ギモーヴにちら、と目線を走らせたが、その後中身がどうなってしまったのかはまた別のお話。



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 Ending Scene:Final
 Side:Risa
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 ――UGN・日本支部。
 

 今回のウイルス騒動についての報告の為、また調査中であった行方不明事件の経過報告等も兼ねて。
 神崎リサは再びこの場所の元を訪れていた――。


神崎 リサ:「――以上が、今回のウイルス騒動の一連の報告になります」
霧谷雄吾:「……」
霧谷雄吾:神妙な顔で、一連の報告を聞いている。
神崎 リサ:健人に体調を押してあげてもらった報告書、それと行方不明事件の経過など、纏められた資料を揃えて提出。
神崎 リサ:あくまで中に記された以上の事は話さずに、パンデミック事故の処理として報告を行った。

霧谷雄吾:「本来なら」
霧谷雄吾:「ねぎらい、“お疲れ様です”……というべき、なのでしょう。が……」
霧谷雄吾:報告書に目を落とす。“他の事件も絡んでいる”“調査続行”――と、ある。
神崎 リサ:「……いえ。一日も早くそちらも解決させたいんですが。現時点では……」
神崎 リサ:申し訳ありません、と頭を下げる。本来ならば次に訪れる際はその報告となっていたはずだったのだが……。
霧谷雄吾:「……」
霧谷雄吾:「ジェルマンの報告ですし、信ぴょう性もありますでしょう」
霧谷雄吾:「何かからんでいる以上、特にあなたの支部が危険にさらされる」
霧谷雄吾:「あまり、脅すわけではありませんが」
霧谷雄吾:「慎重に、取り扱ってください」
神崎 リサ:「……はい。現に部下が、今回の件で何人も被害にあいました」

 ――ぺらっ。
 報告書をめくる。そこには、「死者もジャーム化もしたものはおらず、幸いにも犠牲者は出なかった」とある。
 

神崎 リサ:「被害が拡大したのは、あたしの判断と指示が至らなかったせいでもあります……」
霧谷雄吾:神妙な顔が、ほころんで。
霧谷雄吾:「それでも、なお」
霧谷雄吾:「あなたは、みなを救えました」
霧谷雄吾:「……パンデミックに関しては、起きてしまった災害。それが何が起因であろうが、起きてしまった事態」
霧谷雄吾:「ですが」
霧谷雄吾:「それでもなお、あなたはひとりの犠牲者も出さず。“みなを救えました”」

 きゅ、と唇を噛みしめる。
 あの日の氷の獄が、未だ脳裏に焼き付いている。

 忘れられるはずもない。そう思うと……。


神崎 リサ:「……皆、とてもいい人で、優秀で、あたしにはもったいない素晴らしい部下ばっかり。それにあたしは甘えてしまった……」
神崎 リサ:自分の我儘を嫌な顔一つせず聞いてくれた支部員たち。そんな彼らを蔑ろにしてたんじゃないか。そのせいで危うくすべてを失って、失わせるところだった。そんな思いが、ここずっと心中にあって。
神崎 リサ:「なんとか最悪の結果は防げました。おかげで救う事ができた命もありました、それはあたしも嬉しいです」
神崎 リサ:「でも……」
神崎 リサ:その先は言えなかった。こんな自分勝手なリーダーよりも、もっと立派な人が指揮を執るべき。なんて事は。
霧谷雄吾:「救えたならば、それは誇っていいと思います」
霧谷雄吾:「もちろん、被害があったことは事実です。それによって糾弾され誹謗されることもあるでしょう」
霧谷雄吾:「ですが、あなたはあなたなりに、精いっぱい行い。結果、最悪の事態は免れた」
霧谷雄吾:「――それは、誇ってよいのではないでしょうか」
神崎 リサ:「誇る……」
霧谷雄吾:「“すべてを救い護る”、それは絵空事だ・理想論だ・非現実だ、そういう人も確かにいます」
霧谷雄吾:「現実を見ろ、切り捨てろ、それが最善の手である、とも」
霧谷雄吾:「ですが、夢を、理想を捨ててしまえば、それこそ絶対的に現実にはなりえない」
霧谷雄吾:少し、柔和になる。
霧谷雄吾:「……あなたはその絵空事を、夢物語を、この報告書の状況下であっても、現実に齎したのです」
霧谷雄吾:「たとえ、誰に後ろ指を指されようとも」
霧谷雄吾:「たとえ、誰に石を投げられようとも」
霧谷雄吾:「“すべてを救い護った”、それは、誇ってよいのではないでしょうか」
神崎 リサ:「……こんな自分勝手な自分を」
神崎 リサ:「誇って、いいんですか」
霧谷雄吾:「おつかれさまです。ファイアフラッシュ」
神崎 リサ:「……はい、ありがとうございます」
神崎 リサ:ずっと重くのしかかっていた腹の中の石が、すっと消えた気がした。認められた、認められていいんだ。
神崎 リサ:……なんとなく目の奥がつんとするのは気のせい。きっと。なんとなく目を合わせたままなのが恥ずかしくて、礼でごまかした。
神崎 リサ:「……え、と。引き続き行方不明事件の方も、調査を進めていきます。一日も早く報告を上げられるように」
神崎 リサ:「ただ、その……報告書にもあったんですが。人手が……」
霧谷雄吾:にこ、微笑んでいる。

 ――もちろんこちらも、人手なんてものは……。
 

高橋 健人:無言の圧力を感じる
神崎 リサ:「……健人がこのままだと死んでしまいそうで。あれぐらい出来る人材を、とは言いませんけど、せめて……」
霧谷雄吾:「N市を、よろしくおねがいいたしますね」
霧谷雄吾:あっさり、スルーされたのは分かりました。
神崎 リサ:と、顔をあげて無言の笑顔を直視してしまい。圧力を前に口が止まった。
神崎 リサ:「……尽力します。はい」

 この笑顔を崩すのは無理だ、とは身に染みてわかっているのであっさりと引き下がった。
 元々ダメ元でもあったのだし。


神崎 リサ:「それと……今回保護したオーヴァードの検査結果が出た、とも聞きましたが」
霧谷雄吾:「あ。そうでしたね」
霧谷雄吾:と、傍らから。紙資料のはいったファイルを取り出して、彼女に差し出す。
神崎 リサ:失礼します、と一言おいて早速中身も見せてもらおう。
霧谷雄吾:「概略すると、報告にあったような異常なウィルスの痕跡といったものはありませんでした。ですが、」
霧谷雄吾:「記憶を失っています。言語野などは喪われておりませんが、過去に何があり、どういったことをしてきたか。そういう一連の記憶がありません」
神崎 リサ:「記憶……」
霧谷雄吾:「また、報告に記されていたようなエフェクトも、扱えておりませんでした。オーヴァードなのは変わりませんが……」

 だれ、と辺りを見回していた様子が思い出される。
 あの時はそれ以上注意を払えなかったが、確かに自分の呼びかけの反応も思わしくなかった様子は記憶に残っている……。


神崎 リサ:「レネゲイドの影響が弱まってしまった……ってことですか?」
霧谷雄吾:「ですね。その原因は判然とはしませんが……」
神崎 リサ:「……彼、これからどうなりますか」
霧谷雄吾:「どうしましょう」すっとぼけた言い方。
霧谷雄吾:「そうですね……どなたかが引き取らねば、この報告のことを考えますと、ラボへ輸送、検査と実験の日々の生活になる可能性も、ちらりとは……」
神崎 リサ:「……え、あの」意表を突かれた。
神崎 リサ:「じゃ、じゃああたしが引き取ります!」間髪入れずに身を乗り出した。
神崎 リサ:「身柄を保護する人間がいれば、問題ないんですよね?」
霧谷雄吾:「ええ。責任を持って。いわゆる保護者が必須ですね」
霧谷雄吾:「ではこちらが申請書類です。目を通して、サインをお願いいたしますね」
神崎 リサ:「え、あ……はい」
神崎 リサ:多少もめる話になるはず、と勝手に身構えていたらしい。あまりにも事がうまく進みすぎていて完全に面食らってしまったようで。

神崎 リサ:だから、まだ引き取れるのは当分先の話……そう考えていたはずが。一応差し出された書類にはちゃんと目を通して、サインなどを済ませた。
霧谷雄吾:「それでも、定期検診等は免れないと思います。なのでちゃんとそれはおねがいいたしますね」
神崎 リサ:「はい……わかり、ました」
神崎 リサ:まだ呆然としてる風。あれ、おかしい。こんなに簡単に話が進んでいいんだろうか。いいのか。
霧谷雄吾:書類を受け取り、サインを確認。
霧谷雄吾:「では、おねがいいたしますね」
神崎 リサ:「は、い。あ、っと。その、ありがとうございました」
神崎 リサ:書類を抱えてもう一度深く一礼。
神崎 リサ:そして少し急ぎ足、というか廊下に出たらもう駆け足で出て行きます。
神崎 リサ:こうなったら話は早い、一刻も早く春日を迎えに行こう――!


 ……もちろんこれですべて終わったわけじゃない。
 まだまだクリアしなければならない問題は山積みだし、向かい合わなきゃならない事もたくさんある。

 それでも、今だけは“支部長のあたし”を少しだけ置いておいて。
 今はただの神崎リサとして、あの人に会いに行こう――。

 

 ――N市支部、キネマ・アルバに続く道。


 あれからすぐに病院へ向かって引き取りや退院の手続等――驚くほどスムーズに進んだ――を済ませ、今は2人で帰路についている。
 その待ち時間の間、あらかじめ支部のメンバーと、絵里奈や健人たちにも連絡を入れておいた。

 あの時の青年、睦月春日の身元引受人に自分がなった事。なので連れて帰る事になった事。
 記憶の事。未だオーヴァードではあるが力は弱まっている事など。
 そして――最後に付け加えたのが、サプライズの歓迎会、という名の誕生会をやりたい事。

 ――そうして現在。繁華街の賑やかな街並みの中を2人で歩いていた。
 あれ以来時間が許せば春日の様子を見には行っていたのだが、やはり彼の口からもう"ベツレヘム"が出る事もなく。


神崎 リサ:なので自分の呼び名はリサ、と改めて教えておいた。あの名は、もう彼にとって何の意味も成さないはずだ。
神崎 リサ:……それが少し寂しくもあるような気もしたけれど。今こうして彼が生きているのだから、それで十分だ。
神崎 リサ:「……って春日、そっちの道じゃないって」
睦月春日:「え、あ」
睦月春日:明後日のほうに行こうとしたところを止められる。
睦月春日:「……あり、がと」
神崎 リサ:「ん。もうちょっとだ、頑張れ」

 見るものすべてが珍しいのか、少し目を離すとふらふらと逃げていってしまいそうになるのを何度押さえた事か。
 ……きっと、本当に見た事がないものばかりなんだろう。


睦月春日:「あ、うん」
睦月春日:どことなくぼんやりしては、きょろきょろしている。
睦月春日:どうしても知らない世界、物珍しい世界。おっかなびっくりおびえると同時に、珍しそうに目をキラキラさせている。


 ――しかし、連絡はなんとか入れておいたものの。
 支部員たちからするとあの時の元凶でもある男が戻ってくる、と突然言われて。
 果たしてそう簡単に受け入れてくれるだろうか……そういう懸念も残ってはいた。


神崎 リサ:でもそれも春日の目を輝かせる様子を見ていると、決意へと変わって行く。
神崎 リサ:あたしはもっと無茶な事を成し遂げたんだ。時間はかかるかもしれないけれど、それでもいつか彼らがわかってくれるようにだって出来るはず。
神崎 リサ:いや、してみせる。

神崎 リサ:「……あ、見えてきたぞ。あれがあたしの家、みたいなもんだ」
神崎 リサ:前方に見えてきた建物を示して、そう呼びかける。そう、あたしの家でもあり、帰るところ。
睦月春日:「ふあ……おっきい。おかねもちなの?」
神崎 リサ:「いいや、最近機械がぜーんぶだめになっちゃってな。おかげでもう大変だ!」
睦月春日:「そうなんだ」どことなく上の空。実感がわかないだけなのかもしれない。
神崎 リサ:「と、それにあれは映画館なんだ。皆に映画を見てもらうところ、あたしや春日が暮らすのはもうちょっと奥にある」
神崎 リサ:「あ、映画っていうのは……」

 そう話しながらも、どんどんキネマ・アルバが近づいてくる。もうそろそろ中からも近づいてくる様子が見えてくるはず。


支部員:支部内部で「お、来るぞ来るぞ。総員構えろー」とか言ってる
睦月春日:「へぇ……いっぱいの、いろんなせかい。楽園みたいだ……」
神崎 リサ:「楽園、かあ……そう、だな。あそこなら色んな夢や国が見れる。物語も、未来も。何でも!」
睦月春日:「へえ……」目がキラキラ、すっごい期待してる。
神崎 リサ:「……さて、到着! ここが玄関、ていうか、入り口だな」
神崎 リサ:ドアを示して、開けてみろとうながし。
睦月春日:では、きーと。押し開けます。
神崎 リサ:リサ本人にとっても緊張の瞬間――

 開けた瞬間クラッカーの音がそこかしこからパァン! パァン!

睦月春日:おめめぱちくり。
支部員:ついでにカラフルなテープも舞っております

 ――支部長にとっては見慣れた光景、春日にとっては記憶にない新たな景色。
 色とりどりの風船が連なり、「WELCOME」の帯。通常客はお払い状態。まさしく、いまこの場は“2人のためのもの”。
 

支部員:「支部長ママおかえりー!」「ママじゃねぇだろ」
支部員:「はるひ君も退院おめでとーう!」
睦月春日:「え、え、えっ?!」きょときょと、びっくり。
神崎 リサ:春日の後ろから覗き込んで、想像以上の出来栄えにちょっと目を見開いたものの。
神崎 リサ:その光景と声とに、新たに抱えていた胸のもやもやが晴れて行くのを感じる――。


 支部員の中には、春日に襲われた者も襲った者も居るだろう。
 それでも誰しもがこの様子なのは、支部員の自己嫌悪、少女の説得、誰かさんの根回しなどがある。
 

神崎 リサ:「春日、こういう時はな」
神崎 リサ:「ありがとう、だ」
睦月春日:「ぇ、あっ」
睦月春日:「あ……」
睦月春日:「あり、がと、う」
支部員:「「「どういたしまして!」」」
支部員:「イェーイ!! どういたしまして!!」はるひくんとハイタッチしたい
睦月春日:ハイタッチには目をぱちくりするが、まねてまねて? という風体にはおずおずと、手をあげて。
支部員:イェーイ(ぱーん
睦月春日:ぱーんっ。
支部員:「これで晴れて支部長も正式に子持ち――」「そのネタ食傷気味だからやめとけ」「じゃあパパは誰よ?」
神崎 リサ:いつかも言った言葉。もう彼は覚えていないだろう。でも、だからこそ。
神崎 リサ:皆思うところだってあるだろうに、こうして受け入れてくれる様子を眺めているともう顔が綻ぶしかない。にこにこ。
支部員:「んー、ジェルマン?」「いやいくらなんでも年齢合わないだろ」「霧谷さん?」「藤崎さんでも不思議じゃないかなあ」
高橋 健人:遠巻きにこっそり立っておこうかな。支部員が睦月との間に多少なりとでも溝や嫌悪感がありそうなら、と懸念していたようであったが。
服部 絵理奈:こっちは支部員たちの間を縫ってルマンドとかアルフォートとかきのこの山とかたけのこの里とか配ってるよ
神崎 リサ:「……さて、ママだのなんだのと抜かした奴は前に出ろ」
神崎 リサ:にこにこ、のまま拳に手を添えた。そろそろ突っ込んでおくべきかな、とか。

支部員:「ヒエッ」
支部員:「ママの鉄拳制裁だ!」「逃げろ!」
支部員:にやっと笑って、赤ワインのボトルとグラスをもって前に出る。
支部員:「そういや春日くんて酒飲めるんすかね?」
神崎 リサ:「……たぶんあたしと同じ年頃、だとは思うが。でもまだやめとけ、ちょっとずつだ」
支部員:「さあさ祝いの席なんですから、そんな固いこと言わずにっ」
支部員:2人にグラスを押し付けて、ワインのコルクを抜く。
神崎 リサ:手始めに手近にいた1人を締め上げようとして……差し出されたグラスを思わず受け取ってしまった。
 
 ――いつかの祝賀会よりも盛大な料理の並びだ。あの時も、今もまた多忙ではあるが。
 生きて皆が居る、というこの上ない状況を祝うためには、多少の足/赤字ぐらい許されるだろうと。
 

支部員:とっとっとっとっと――。ワイングラスになみなみと、赤ワインが注がれる。
支部員:にこっ。
睦月春日:こちらも思わず受け取ってしまい、なみなみ注がれる赤ワイン。
睦月春日:これどうすればいいんだろう、と、リサちゃんのほうを見ている……。
神崎 リサ:「……はは、参ったな」困った顔、でも笑っている。
支部員:「あ、ケーキは31のパレット9(複数)だぞー!」「先にはるひに選ばせろな?」
神崎 リサ:「じゃあちょっとだけ、な……春日!」
神崎 リサ:す、とグラスを差し出して。
神崎 リサ:真似するように目で促してみる。
睦月春日:リサちゃんを見て、グラスを見て。
睦月春日:まねて、グラスを差し出す。
神崎 リサ:勢いよく打ち付けては割れてしまう、ので。そっと、でも音が響くように。

――カーン☆


 ――カーン☆
 

   ――カーン☆ つられてあちこちで乾杯の音が上がる。

睦月春日:乾杯する、そしてくっとグラスに口づけて飲んで。
睦月春日:「ふぁ……」
神崎 リサ:おかえり、と心中でだけ呟いて。くっとこちらもグラスを傾ける。
神崎 リサ:「……あ、あんまり一気に飲むなよ! 結構きついんだから!」
 
 あなたこなたで乾杯の音、それを合図に始まる祝賀会。
 喧騒の中、聞こえるか聞こえないか、かき消されてしまったかもしれないそんな小さな声で

睦月春日:「……ありがと、ベツレヘム」
神崎 リサ:「……え?」
神崎 リサ:ふと風に乗って届いたような、そんな声のような。思わず振り返ってみるも――
支部員:「ほら今日は喰って飲んで、騒いでっ」
睦月春日:「え、あ!?」
支部員:「ケーキもあるからさ、ささ、こっちっ――」
睦月春日:「わ、わ、わっ。待って、待っ……!」
支部員:「こっちこっちっ。好きな奴選んでいいぞっ」
睦月春日:「え、あ。じゃあ……このお星さま、のついてるやつ? いいですか?」
神崎 リサ:もうすっかり打ち解けた様子、と見ていいのか。あの心配はなんだったんだろう、と笑えてしまう。
支部員:「おう、お目が高いねはるひ君。持ってけ持ってけーぃ」
睦月春日:「あ、ありがとうございます」
支部員:お星さまが上に乗っかったアイスを皿に載せてスプーンと一緒に差出し。
睦月春日:さしだされ、もうひとつもらっていく。ひとつのお皿に2つ。スプーンもお願いしてやはり2つ。
神崎 リサ:こんな未来がやってくるなんて、あの頃は考えもしなかった。
神崎 リサ:ユメなんて見るだけつらいもの、とさえ思っていた世界を変えてくれたのは。

 
 ――希望の星(ベツレヘム)。かつて人々に救済の預言として空に輝き、希望を齎した。
 ――その星は今、地上(ここ)に輝いている。
 

神崎 リサ:「……ありがとう、オリバナム」
神崎 リサ:そっと、ぽつりとつぶやいて。
睦月春日:くっくっく、リサちゃんの服の裾を引っ張る。
神崎 リサ:「……え、あ、どうした春日」
睦月春日:「いっしょに、たべよう?」
神崎 リサ:差し出された星のマーク。じ、と見つめて、顔がほころんだ。
神崎 リサ:「……うん、あたしも食べたい!」
神崎 リサ:そう頷き返して、スプーンを受け取った。

 すでに空にしたワインのせいか、とても気分がいい。そしてこのあたたかな空間がとても心地いい。
 ここはあたしの帰るところ。守るべき場所。あたしが守り切った場所――そう、今なら胸を張って言える。


神崎 リサ:――いや。あたしだけじゃない。あたしと皆、絵里奈と健人とで、守りきれた場所。
神崎 リサ:そして春日を諦めずにいれたから、今の未来がある。
神崎 リサ:寒くて暗い場所で終わらなかった、まばゆい《ひかり》の中に2人でいられるんだ。


 ――仕切り直しの宴は始まったばかり。
 ここまで頑張ってくれた皆の為にも、今日ぐらいは羽目を外しなおさせてあげてもいいだろう。そうしたらきっと、また新たなスタートを切れるはず。


神崎 リサ:そんな思いと共にケーキをぱくり、一口頬張った。これは、生涯忘れられない味になりそうだ。


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