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 Back Track
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GM:慢心大敵、ラストボスのご登場でございます。
GM:各人最終侵蝕率と、残ロイス数を宣言してください。
松笛人理:俺の残ロイスは1だぞー!(127%やね)
松笛人理:違う、2だ
穂積 月夜:135%の、残り2つですね
アロンドラ・カルディア:同上
アロンドラ・カルディア:の147%
GM:1じゃないかな?
GM:さっき解放の時に2択、で、1個Sロイスを切ったから。
アロンドラ・カルディア:仕切り直せー。147%の残ロイス2! 以上!
松笛人理:箱解放の時、残ロイスがひとえちゃんとマッマの二択と思ってたけど、もう一つアロンドラさんのロイスがあったよ! ごめんね!
松笛人理:というわけで2本なんだ
GM:【Eロイス数】
GM:ヤソマガツヒ|>《悪夢の鏡像》《変異する悪夢》《虚実崩壊》《予告されし終焉》《傲慢な理想》×3 7Eロイス/7カウント
GM:オオマガツヒ|>《悪夢の鏡像》《変異する悪夢》《唯我独尊》《堕落の誘い》《殺人圏》 5Eロイス/6カウント
GM:総計Eロイス|>12ロイス/13カウント

GM:順番にまいります。
GM:PC1:松笛人理。
GM:Eロイスの適用をするか否かを選択後、バックトラックに移行お願いいたします。
松笛人理:うーむ……
GM:先に言いますと。
GM:Eロイス放棄したらジャムると思っていいです皆
GM:(なので質問がほぼ形骸)
松笛人理:うむ、確率を確認したら、3倍振りでも7割帰還だ。安全のためEロイスを振りましょう。
アロンドラ・カルディア:慢心はあかんで工藤!
松笛人理:松笛人理の侵蝕率を-73(13D10->6,8,9,7,8,6,1,7,9,5,1,1,5)した(侵蝕率:127->54)
アロンドラ・カルディア:せやね
松笛人理:等倍ぶりでー
松笛人理:松笛人理の侵蝕率を-5(2D10->4,1)した(侵蝕率:54->49)
松笛人理:49%で帰還でーす。
GM:おかえりなさいませ現世(うつしよ)に。
GM:PC2:アロンドラ・カルディア。
GM:Eロイス適用うんぬん後、バックトラックに移行をお願いします。
アロンドラ・カルディア:えーではEロイス適用、振りますねー。
アロンドラ・カルディア:147-13d10
DoubleCross : (147-13D10) → 147-67[5,4,9,6,4,1,4,4,6,4,9,7,4] → 80

アロンドラ・カルディア:ワオきりが良いぞ。
GM:さすがっ。
アロンドラ・カルディア:で、等倍します。
アロンドラ・カルディア:80-2d10
DoubleCross : (80-2D10) → 80-16[9,7] → 64

アロンドラ・カルディア:以上です。
GM:おかえりなさいませ現世(うつしよ)に。多分これからたいへん世界の守護者!
GM:PC3:穂積月夜。
GM:Eロイスの適用をするか否かを選択後、バックトラックに移行お願いいたします。
穂積 月夜:はーい、まずはEロイス適用
穂積 月夜:135-13D10
DoubleCross : (135-13D10) → 135-60[5,2,4,8,3,7,7,5,3,3,10,2,1] → 75

穂積 月夜:では等倍で
穂積 月夜:75-2D10
DoubleCross : (75-2D10) → 75-12[2,10] → 63

アロンドラ・カルディア:やだー僅差ーおかえりー
GM:おかえりなさいませ現世(うつしよ)に。
穂積 月夜:戻ってきましたよっと
GM:やっぱみんながっつりかえってきたよなああああああ!?
アロンドラ・カルディア:女子仲良いわねー
GM:いぇーい! てことで雑談GOGO、エンド相談なのですよ
GM:(といってもエンド自体は明日持越しだけどね)


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 Ending Scene:1
 Side:Alondra
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アロンドラ・カルディア:――というわけで。元UGN構成員ならこちらで後処理はする――などとアロンドラは柔和に笑い。

 河原では痛かろうが仕方ない。
 まだ意識がないなら回復体位を取らせつつコートをおっかぶせなおしておく。


的場啓吾:「く、あ……」
アロンドラ・カルディア:「意識はありますか。カラダ、具合、大丈夫ですか」
アロンドラ・カルディア:努力して発音を整えよう。脈はあるし、意識も戻ってきた。ひとまずは胸を撫で下ろす。


 コートをかぶせられ動かされると、うめきが毀れ。
 定まらない焦点がゆっくりと結んで、見渡す。

 ――状況を、把握する。
 

的場啓吾:「……」
アロンドラ・カルディア:背をさすり、上から表情を覗き込んで状態を伺う女の顔が朧気にありそうです。
的場啓吾:「……とどめを」
的場啓吾:「とどめを刺さないのですか、ご婦人」
アロンドラ・カルディア: 「はい?」

 ――耳を近づけて弱々しげな、けれども意思の強い声色をしかと確認した。

アロンドラ・カルディア:「ああ、大丈夫そうですね。良かったです」

アロンドラ・カルディア:さらりと流す。水場なだけに。

 処置の様子を見れば、専門家が施したのくらいは分かる。
 この中でこんなことを施せそうなのといえば、この目の前のご婦人位だ。
 

的場啓吾:「――たすけるだけ、無為ですよ」
的場啓吾:「……俺は、とりもどすまでは、何度でも」
アロンドラ・カルディア:「ムイ? Mui……エート」
的場啓吾:小さくため息をついてから
的場啓吾:「助けるだけ、無駄、ですよ」いいなおす。
的場啓吾:「俺は、失った家族を取り戻すまでは、何度でも。何度でも同じことを繰り返します」
アロンドラ・カルディア:「なら、ワタシはその犠牲をうまないよう。何度でも助けましょう」
アロンドラ・カルディア:「今、アナタ、ここで殺すのも、UGNにご連絡するのも実に簡単なことですけど」
アロンドラ・カルディア:「私が言うなれば殺したいのは“死”。ヒトではないです。“生かす”ことが、私のナリワイですから」
アロンドラ・カルディア:「Ahー……受け売り、私のチョトお馬鹿な、《大義》。ですね」
アロンドラ・カルディア:微笑に多少の憂鬱が混じる。男の顔が脳裏に浮かんではすぐに掻き消えた。

的場啓吾:「ふっ……ははっ」
的場啓吾:小さく笑う。
的場啓吾:「……ずいぶんな大義なことだ
的場啓吾:「為せることは、祈っておきますよ」
アロンドラ・カルディア:「当然。願うだけでは叶いません、それに――」
アロンドラ・カルディア:一瞬の思索。どう言ったものか、それを噛み砕いて緩慢に口を開く。

アロンドラ・カルディア:「ああ、祈りを。ありがとう。ワタシ、とてもうれしいく、受け止めます」
アロンドラ・カルディア:胸の前で手を組む。ここに十字はないが、島の何処に神を崇める場所がある。
アロンドラ・カルディア:「……箱は、アナタの望んだ形で成就するか判らないままです。ご家族さんは、……」


 ――そうだ、箱自体は既にない。解放された、ということを空を一瞥して再度認識しながら。
 掛ける言葉を、ゆっくりと、考えて。


的場啓吾:「なくなってしまったなら仕方ない。振出しに戻るが探し出す」
的場啓吾:「UGNにいたころにも、実際、死したものを蘇生させる《遺産》はあると聞き及ぶ。出来ないことはない筈だからな」
アロンドラ・カルディア:「確かにワタシも、もし大事なヒトたち、どうしようもなく、死んだら……同じことにしていたかもしれませんね」
アロンドラ・カルディア:「けれどね、それで全てなかったことにできて、どうなるかはわかりませんから」
アロンドラ・カルディア:神は平等であることを念頭に置いている彼女には、その願いを容認ことはできなくても、共感はしてしまう。

アロンドラ・カルディア:「何か一つ、些細でもいいです。後悔はありますか」
的場啓吾:「後悔? あー……」
的場啓吾:「酒のひとつも飲み損ねた、というところでしょうかねえ」
的場啓吾:ずいぶんと、人間じみたセリフが出る。
アロンドラ・カルディア:「Wow。……その後悔、改めねばなりません。そうですね、神のオヒザモト、じゃあ、それはできませんから――」
アロンドラ・カルディア:ぱっと即座に閃く。

アロンドラ・カルディア:「今はヘスース様、見てないということで。確かに誰の行いも見てますでしょうが、今日この日は、どうかワタシに免じてお赦し頂けないでしょうか」
アロンドラ・カルディア:――なんて、芋焼酎の酒瓶を抱えていた女が言うような台詞ではない。

GM:\ずっと酒飲んでたじゃん/
アロンドラ・カルディア:アルコール消毒だよ!!!(欺瞞)
アロンドラ・カルディア:「ギョーサン、飲みましょ。立てます? エート……手当は一応したんですが、傷に響くといけないですし……」
的場啓吾:「ヘタなモノよりよほど頑丈なのは自慢ですよ、自分はね」
的場啓吾:そういうと立ち上がり、リニアヴィーグルの傍らまでいって。
的場啓吾:「――乗りますか?」
アロンドラ・カルディア:「そうですネー……。アー」
アロンドラ・カルディア:ちらっと松笛の方を見たような気がする。多分あとで来るかもしれないしどっちでもいいや的な。

アロンドラ・カルディア:「ノリます!」ノリノリ!
的場啓吾:では、さらっとヘルメットを錬成して渡しましょう。
的場啓吾:「寒いですしあぶないので。そして、」
的場啓吾:「ナビゲーションはおねがいします」
アロンドラ・カルディア:「Sí」。簡単に肯いて、ヘルメットを被る。的場にかけていたコートを羽織る。示すは居酒屋、某売れてるんだかわからない師の店。


 ――ぶろろろろろ……。
 


 ――居酒屋・安紅楽。
 

松笛人理:戻ってきて、何喰わぬ顔をして、開店準備を整えている。各種地酒やリキュール類、おつまみなどなど準備は万端。

 扉を開け放つマグナム拳。仁王立ちして後ろになんか怖い人をバックにアロンドラは叫ぶ。

  _人人人人人人_
  > タノモー!! <
  ‾Y^Y^Y^Y^Y‾


松笛人理:<へいらっしゃい
的場啓吾:黙って暖簾をくぐりますよ。
アロンドラ・カルディア:「売らない師サーン! いつもの! あと貸し切りできないかしら!」
アロンドラ・カルディア:代休取れない代わりに経費に含めて意趣返しにしてやる心算が垣間見えた。

松笛人理:「まいどー! って、おお、その人連れてきたんだ!? いや文句はありませんけどね! じゃんじゃん飲むといいですよ!」
松笛人理:「貸し切り」の札を表に出して、スタンバーイ
アロンドラ・カルディア:「オーレ! 今はオキャクニン! 関係ないデース!」
アロンドラ・カルディア:バタバタとカウンター席を陣取る。隣にお座ってくださいなと的場に指し示す。

的場啓吾:会釈して隣に座りましょう。
アロンドラ・カルディア:「イモジョーチュー!」っていう前に酒瓶とかアイスペール用意してきそうだな~。
アロンドラ・カルディア:コートは椅子にかけた。戦闘態勢に移行します。
的場啓吾:うすら目をそらす。
的場啓吾:「……赤霧島」
アロンドラ・カルディア:「アカキリシマ?」ブランド名は対して気にしていなかったようだ。ガッツリ飲めればいいとか医者の不養生。
松笛人理:「どうぞー」ご注文の品をすっとカウンターに置く。
アロンドラ・カルディア:「えーとそれから……テキトーなオツマミ!」さつま揚げとか? きびなごの一夜干しとか?
松笛人理:んじゃあ、ホタルイカの塩辛と、チャンジャと、クリームチーズの味噌漬けをちょいちょいなと
アロンドラ・カルディア:あっ海ぶどう食いたい(PLの心情)
松笛人理:じゃあそれも追加で(とん
アロンドラ・カルディア:やったぜ。
GM:\飯てろーる/

 ガツン、とグラスの底をカウンターに叩き、ヤケクソ気味に酒瓶の中身を氷無しでぶっこんだ。
 もはやレディとかご婦人の領域を超えている。


アロンドラ・カルディア:「マトバサンも!」瓶があるなら注ぎましょう。ここは奥ゆかしい。でも先程の行動をカヴァーしきれていない。
的場啓吾:薄く笑ってから「では」といって、氷のはいったグラスを傾け、そそいでもらいます。
アロンドラ・カルディア:「……まー、その、適度にたのしんで。それが一番ですし。……ワタシもまだチョト、治ってない。でも、アルコール消毒しまーす」
アロンドラ・カルディア:グラスを掲げて、「Salud!(乾杯)」とおもむろにぶつける。

的場啓吾:「Salud」

 ――こん。
 

アロンドラ・カルディア:「Gracias por su trabajo!」

 ――かーらーのー。一気。


アロンドラ・カルディア:ぷっはー。と息をつく音がする。ただのおっさんである。肘を机上に付き、ふいに心配そうな視線を的場に向けた。
的場啓吾:すこしだけ傾けて、飲む。世辞に”呷る”などとは言えず、たしなむ程度の飲み方。
的場啓吾:「……っ」、わき腹を抑える。少し痛むようだ。
アロンドラ・カルディア:「まあ、アナタはあんなこと言ったし。ワタシはきっと、本当は“シゴト”しないといけないのだろうけど――」
アロンドラ・カルディア:あ、やっぱり染みたか。と申し訳なさそうに脇腹に手を添えた。

アロンドラ・カルディア:「……やっぱり無理はよくないわね」苦笑い。
松笛人理:ソフトドリンクやあったかいものもありますよ、と店員は一応言う。
的場啓吾:「まあ、造りたての躰ではありますからね……」苦笑い。酒に男がやられるのもだいぶなんだとは思う。
アロンドラ・カルディア:「落ち着いたら、また飲めばいいデース。そこの売らない師さん、暫くヒール、散布してマスから」
アロンドラ・カルディア:おーいお茶(HOT)要求。
松笛人理:(茶葉をごそごそ)(こぽこぽ)スッ
アロンドラ・カルディア:――触れた手はレネゲイドを手繰り、なるべく有害菌は除去しておく。傷口に菌は厳禁です。
アロンドラ・カルディア:「……すこしは、気、晴れました?」それからグラスを片手に、また器用にも箸を握り。
的場啓吾:「まあ、すこし、は」

 からり。グラスの氷の音が鳴る。
 

アロンドラ・カルディア:ホタルイカを物珍しそうに見てつまむ。「Está rico!(んま!)」と小声を上げて。
アロンドラ・カルディア:芳醇な匂いと、海産物の塩気ある旨味。口内を満たすそれらは、非常にアロンドラを満足させている。
アロンドラ・カルディア:「……UGN。ワタシ、アナタ差し出す。……しませんので」

 ――咀嚼音を止め、グラスを置く。それからそう告げた。
 裏切りと誹られるかもしれない。だが、女にも考えはある。そして、UGNの行いにも色々考えはあった。
 正義のヒーローと謳えど、薄暗い影は光の裏にあるのを彼女も知っている。


アロンドラ・カルディア:「ただ、FHは抜けてほしい――ってのはワガママですね。はい……」逡巡して、お代わりを注ぐ。
アロンドラ・カルディア:湯気立つ緑茶を横目に、的場には視線を合わせづらかった。

的場啓吾:「それはありがたいことですね」

 半分は社交辞令。半分は真意。
 ことばそれそのものには偽りはない。
 

的場啓吾:「ですが、FHを抜けるということはないでしょうね」

 自分は世辞に《何かを探す》ことには長けていない。
 その状態で、欲望(ネガイ)を叶えようと思えば、それに長じた場所に与するのが手っ取り速い。
 

的場啓吾:「自分は、」すこし逡巡する。
的場啓吾:「あの時、喪った時に、死にました。今の自分なぞ、そのころに比べたらぬけがらに等しい」
的場啓吾:「……いくどか」
的場啓吾:「いくどか、守護者であったころの知己にも、説得もされましたよ。【あなたがそんなことをするな】【今なら戻れる】【やめてくれ】と」
アロンドラ・カルディア:「昔のアナタも、その頃の言葉も、ワタシにはショージキ何も関係ないですが…………」
アロンドラ・カルディア:言葉を交えるためか、ちびちびと呷っている。

アロンドラ・カルディア:傾聴の姿勢は取っている。
的場啓吾:「だが」
的場啓吾:「自分に嘘をつけば、願いを捨ててしまえば、それこそ”自分”ですらもなくなる」
的場啓吾:「――生ける価値なぞない、ただの屍ですよ」
的場啓吾:「《兵器》としてなら、また話は変わるのでしょうが」
的場啓吾:「”自分”は、自分であるがゆえに」
的場啓吾:「私は、私のために」
的場啓吾:「――あの子を、彼女を取り戻します。そのために生きると、誓いました」
アロンドラ・カルディア:「ええ。そうでしょう。願い、欲望、欲求。これらはヒトに備わったダイジなもの。ホントウにないということは、概してないと思いまーす」
アロンドラ・カルディア:「アナタは、アナタのままだからこそ。ヒトとしてそうやって行動しているからこそ」

 「そーです。ア ナ タ は し ん で ま せ ん」
 そこはだいぶ強調して、脇腹を抓ろうとする。
 

的場啓吾:「……っ?! ご、ご婦人っ??!」
アロンドラ・カルディア:「的場さん。生きてください。ワタシも生かします。“すべての人のために”。ただ、そのためにだけとは言わないけれど、」
アロンドラ・カルディア:「……はあ、歳は食えないものだと思いたいデース」自分の甘さには辟易しているようだ。後の露見を、少し恐れていた横顔。
的場啓吾:くつくつと小さく笑う。
的場啓吾:「――まあ、”口にも出せなければ”、叶うことはありませんからね」
アロンドラ・カルディア:「…………」黙々と一気につまみを食べている。酒を呷る。

 一通りの手順を終え、もはや尽くす言葉は見当たらない。

アロンドラ・カルディア:「もしまた逢うことがありましたら、その時はそのときです。Cuando una puerta se cierra, otra se abre――アナタに幸があらんことを」
アロンドラ・カルディア:Amen。小さく手を組んで祈った。神と、それから、この救えきれない男に。

アロンドラ・カルディア:「じゃ、ワタシはお先に。あ、お金はテキトーにUGN宛に請求してくだサーイ。経費」
アロンドラ・カルディア:すぱっと切り替えて立ち上がる。残った酒を飲み干し、コートを羽織る。

アロンドラ・カルディア:「“家族がアナタに何を願っているのか”。そのことは、少しお考えになってくださいね」

 オマケのように、しかし重みを含んだ言葉を残して女は扉を開けて颯爽と去る。コートの端を、大事そうに握っていた。


的場啓吾:「……」

 ――からん。

 グラスを置けば、中の氷が当たる音。
 ひとりになれば、それが余計とよく通る。
 

 沈黙したまま。
 代金はそのまま、グラスの下敷きに多めにおいていく。
 

的場啓吾:「……おそらくは」
的場啓吾:小さくつぶやく、が、打ち消すようかぶりを振る。

 浮いてきたその”答え”と、今の自分の在りようは。
 ――おそらくは交わらないものだから。
 

的場啓吾:「身勝手だとは思ってるよ」

 それでも、なお。
 ――望まずには、いられないのだから。



 ――的場が“自分のため”に家族のことを考えている、そう考えながらも。

 果たして天上にて安寧を賜る家族は、今の的場を見てどう思うのか。その想いを呈していた。
 何にもついてまわるのは、罪罰である。彼が無事に事を成し遂げたとして、その代償がいかなものになろうか。
 彼女は喪った者を想う人たちと同列に的場を想っていた。

 彼女の足取りは、目当ての教会へと向かう。相談先に、親友の笑顔を思い馳せる。
 悔いは彼女にも山程あってこそ、また神にも告解したかったのだ。



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 Ending Scene:2
 Side:Tsukuyo
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 セルへ帰還する。
 Dr.コードウェルからの指令を受けての今回の件だが、ことの一連・顛末を考えれば、頭痛の種ばかりがある。
 何しろジ・エンドに至ってはざっくりいえば、「“箱”がどういうものかわかった上で」「単独行動を起こし」「《調和の小座》どころか《調和の小座》が管理・伝達するセル全体を破滅・消滅の意志があった」。
 もちろん《調和の小座》の統括者:マスターメフィストフェレスも、例外のはずはない。

 そもそもDr.からの通信通達の指令である「“箱”を追う」というものに対し「破滅させに行きました」「最終的に昇華して喪われました」という顛末な、わけでして……。

 ただDr.コードウェルからは。
 「セルに一任する」
 ただ、それだけだった。
 


 ――ブックカフェ、little peace。
 ――地下書庫。
 


 その場所は一般的に考えられるような場所ではない。
 塵や埃一つ許さない、清浄な空気を保つ空間である。


 ――2人が訪れるその部屋の中、一冊一冊を慈しむように中身を確認する男の背中があった。
 “マスター・メフィストフェレス”。悪魔の冠(な)を抱く者。小教区を騙る場所の主。人間の隣人。


 帰投時の道程で、任務についての報告はあらかた済ませてある。
 しかし、だからといってセルリーダーに直接報告をしないわけにもいかない。今のような状況ならなおさらである。


穂積 月夜:「“恐怖の大蠍”、“終わった男”両名、ただいま帰投しました」
穂積 月夜:そういった言葉で、まずは事務的な帰投報告をする

樋浦彼方:「マスター・メフィストフェレス」
樋浦彼方:「“終わった男”、並びに“恐怖の大蠍”」
樋浦彼方:「……ただいま、黒島より帰還いたしましたことを、報告させていただきます」
“マスター・メフィストフェレス”:「やあ、お2人とも。ご苦労。“恐怖の大蠍”。此度は上々な首尾であった。賞賛しよう、喝采しよう」
“マスター・メフィストフェレス”:報告以前に、何事かは承知である様子だ。

穂積 月夜:「らしくもないことをして、少しだけ大変でしたけどね」
“マスター・メフィストフェレス”:「――続けて“ジ・エンド”。報告したまえ。君にはその責任を、《岩》を山頂へと押し上げる行為が必要になっている」
樋浦彼方:「先だってに伝達いたしました通り、“断罪の聖人”より大蠍がたまわりし指令、“箱”の追跡」
樋浦彼方:「――我が一身上の都合により、介入し、追跡行動し、結果」

 ちりっ
 ふだんならありえないはずの行動。
 おもむろに樋浦が、“この場で厳禁”の煙草をくわえ、火を燈す。
 

樋浦彼方:「――その“箱”ごと破損、現世より喪われましたこと、報告させていただきます」
穂積 月夜:「(あー……リーダー、怒るだろうなぁ)」
穂積 月夜:「一応言っておきますけど樋浦さん、わざとリーダーを挑発してます?」
穂積 月夜:その声にいくらかの呆れを含ませながら

 ――主人は即座に反応した。その破顔は保たれたまま、風刃が樋浦のタバコの先をかすめる。
 灯った火の先の部分だけが、首を断たれたように落ちるだろう。


樋浦彼方:「……」
“マスター・メフィストフェレス”:「先んじて、あとで樋浦君には書庫の全体掃除お願いするね」。僅かな威圧の《声》に、怒りは滲んでいない。
“マスター・メフィストフェレス”:明らかに仰々しい行動だからこそだ。

樋浦彼方:「――バレバレ、か、」

 ならば、と、手より昇りめぐる、炎の蛇。
 鎖のようにそれが出でては、周囲の書架へとゆるり、のびる――
 

“マスター・メフィストフェレス”:「“恐怖の大蠍”」その一言のみを、今この一瞬に告げる。
穂積 月夜:「はぁ……まったく樋浦さんは……」
穂積 月夜:呆れのこもった溜め息とともに、彼女の右脚が文字通り、樋浦に“巻きついた”。
穂積 月夜:両足首を括るように巻きついたそれは、樋浦のバランスを損なうには十分だっただろう

穂積 月夜:そのまま腕を打ち払い、炎の発生源を止めにかかる

 絡みつかれ、そのままあっけなく落され床に伏せる。
 腕を払われればいともあっさりと、炎が立ち消え組み伏せられる。
 

樋浦彼方:ブラインドかかった目に無気力な躰に力。聞こえるか聞こえないかの声で。
樋浦彼方:「殺りなよ。それで終いだ」
穂積 月夜:「目的が果たされたからってこれですか? ……勝ち逃げとか、私は許しませんからね」
樋浦彼方: ……。
樋浦彼方:“主犯”がしねば、無用な火の粉も被らないだろうから。

穂積 月夜:「それに、無抵抗な相手を一方的に殺すなんてのは、大っ嫌いなんですよ、私」
“マスター・メフィストフェレス”:「報告しろとは言ったけど、野郎の“遊び”に付き合わされる謂れはないねえ」
“マスター・メフィストフェレス”:合間に挟まる主人の言葉。工作員のあまりの三文芝居には、冷淡に言ちるのみ。

樋浦彼方:マスターの方へ一瞬視線をやり、
樋浦彼方:「――“遊び”じゃなければよいんですね」
“マスター・メフィストフェレス”:「今ここで何を持ってしても、戯れにすぎないだろう。君に覚悟やら諦念やら、――あるいはぬるい自己犠牲で事を済ませようなんて腹積もりがあってもね」
“マスター・メフィストフェレス”:「《欲望(じぶん)》を見喪ったからこその自棄に付き合わされる身にもなってくれ。なあ、穂積君」
穂積 月夜:「まったくです。こんなときに“終わった男”になられたって困るんですよ、付き合いきれません」
穂積 月夜:「それに、今まで黙ってましたけど、私はそのコードネームが嫌いですから」

GM:\嫌い言われた/
GM:#GMもぢつはきらいです
穂積 月夜:<ほとんどの場面で苗字呼びだった理由がこれ
“マスター・メフィストフェレス”:そしてあえて漢字で呼ばないのも“終わっている”と思っていないからです。
樋浦彼方:「……」

 次に思いついたのがこの束縛から抜けてマスターの首を狩りにいくことだった。
 明確なまでの殺意と反逆があれば、意図を見ぬいていたにしても即応するだろうと見越して。
 

樋浦彼方:「……なれないことは、するもんじゃない、か」
樋浦彼方:ツクヨちゃんの方へとぼんやりと向く。
樋浦彼方:「どれにしてもそのコードネーム、おそらくもう無為なモノ」
樋浦彼方:「お察し通り、俺の欲望(ねがい)は成された。……FHには、悪霊にはもう足りない」
樋浦彼方:「そも」
樋浦彼方:「……とくだん、いきたいとも思わない」
穂積 月夜:「……」
穂積 月夜:「……死にたい、なら、処罰も決めやすいんですけどね。 どうしましょうか、リーダー」
穂積 月夜:むっとした表情でしばし考え込み
“マスター・メフィストフェレス”:「おっと、それを私に振るか」まあ当然だよね、と付け加え。
“マスター・メフィストフェレス”:「――管理セルにおいてこんな私情を挟むなんてとんでもない。調和を齎すはずの我がセルに死を齎そうだなんてさ」
“マスター・メフィストフェレス”:「さて、この落とし前はどうつける? 今回は特別に――“相方”にもご提案をいただきたい所だね。彼は本当に見失ったのか」

“マスター・メフィストフェレス”:「此度のことは君の成果もあってこそだ。1人の失態を、また君1人で赴いて片をつけた」そこで一度、一呼吸。
穂積 月夜:最早考え込むのもめんどくさいと言わんばかりに、おもむろに手指を外骨格化させ、抑え込んでいる樋浦をつつく。
穂積 月夜:「ああもう、なんでこんなにめんどくさいんですかねこの人!」
穂積 月夜:つつく、とは少々語弊がある。明らかに突き刺していた。


 とはいえ得物を握っていないうえに、樋浦の耐久力は十分すぎるほどに理解している。
 万に一つ間違ったところで、彼が死ぬことはないだろう。


“マスター・メフィストフェレス”:「この2つを天秤にかけ、裁量は私全てが負うものだとは承知済みさ。しかし《調和》のためにも敢えて拝聴したい」――と括る――が。
“マスター・メフィストフェレス”:その間に実力行使に出ていたので「あー」って顔になった。

“マスター・メフィストフェレス”:「……穂積君に脳労働はきついか」そんなぼやきが刺突にまぎれてかすかに聞こえた。
“マスター・メフィストフェレス”:「イチャイチャするのはいいから、はい! 僕辛くなってきました! 何すればいいんですかね! “ジ・エンド”君! 君もなんとかいってやりなさい!」
樋浦彼方:「俺に、ふられ、ましても」

 常人だとこれだけでも死にかねないだろう、外骨格の刺突。
 だが自身の体質的なモノも相まって、ほとんどじゃれてると変わらない。
 ――はたから見る分には、えぐい絵面も混じるかもだが。


“マスター・メフィストフェレス”:盛大に《咳払い》。肌を撫でるような風が諌めるように吹きすさんでいる。
穂積 月夜:刺突する手をいったん止め、リーダーの方を見る。
穂積 月夜:「といってもどうしましょうか……生かしても殺しても”罰則”にはなりませんよ?」
“マスター・メフィストフェレス”:「たまには使ってない部分の脳みそを使って捻出してみてください。私は当に決めていますが」
“マスター・メフィストフェレス”:その語調は子供に問いかけるさまであった。

穂積 月夜:「脳みそを”使え”と言われて、一瞬だけ自分の頭を割るのかと考えた私が憎たらしいですリーダー……」
“マスター・メフィストフェレス”:「穂積くーん。……あー泣かないでごめん。いじめてるわけじゃないの。僕はそっちのケより――って違う。投げないの」
穂積 月夜:「っと、冗談は置いといて……殺すのは無しの方向にいきましょう。 それだと樋浦さんの勝ち逃げになっちゃいますから」
穂積 月夜:「だから、生かさず殺さず…………とりあえずの減給と、地下書庫の掃除を半年間……?」
“マスター・メフィストフェレス”:「……まあ、曲がりなりにも“ディアボロス”が寄越した人材だからな。別に邪険にしてもしょうがないし」
“マスター・メフィストフェレス”:「――樋浦君が優秀なエージェント、いや、もしかしたら私なんかよりもずっと素晴らしい――立ち位置に居るべき者がこんな手元にあるんだ。早々手放すわけがないじゃないか」
樋浦彼方:組み伏せられたまま、ほんの少しだけ、曖昧に笑っている。
“マスター・メフィストフェレス”: 呆れた様相だ。そして穂積の意見を聞いて顎に手をかける。
“マスター・メフィストフェレス”:「そうさな。骨を折り、大胆にやり遂げてこそ『勝ち』だ。一端のFH(あくりょう)気取りならそうじゃなくちゃあねえ……」

 主人の言葉は続く。

“マスター・メフィストフェレス”:「はて――“イスカリオテ”殿はきっと全て織り込み済みだったんだろう。私には理解るよ、たぶんね」
“マスター・メフィストフェレス”:「く、くくく……でもポンコツな願望器だなんて残念だ」

穂積 月夜:「(そういえば、リーダーが“箱”に込めるだけの願いがあったら、何を願うんだろう……気になるなぁ)」
“マスター・メフィストフェレス”:「減給も書庫掃除もいいだろう。結構。《欲望》を喪ったとて」
“マスター・メフィストフェレス”:「――ただの《死人》は悪霊に成りうる。幾らでもどうしようとも使いようはあるんでね。君がFHにおける存在意義をなくしても、はいさよならなんてこっちが損だ。大損だ」
“マスター・メフィストフェレス”:「“恐怖の大蠍”。彼の今の《欲望》の足掛かりを、君が与えることはできるかい」
穂積 月夜:「うーん……足がかり、足がかりですか…………」
穂積 月夜:しばしの沈黙の後、仕方なく、こればっかりは言うまいと思っていたことを口にする
穂積 月夜:「……そういえば、そういえばですよ? 私、知り合いの子に、近々合コンに誘われてまして」
穂積 月夜:「それで男性の方が一名、予定が合わなくてキャンセルしちゃったんですよ」
穂積 月夜:「というわけで樋浦さん……人数合わせとしてでも良いので、参加しません?」
樋浦彼方:むしろそれ、店長誘ったほうがいいのでは……と、口から出かかるのを抑えて。
“マスター・メフィストフェレス”:ん????? って顔。その末席に私は呼んでくれないのかという顔。
樋浦彼方:「どの程度の立ち回りをすればよいんですかねえ。籠絡しにいくのか、露払いに行くのか。壁の花をしていればいいのか」
穂積 月夜:「その辺は臨機応変に……なんですかリーダー?」
“マスター・メフィストフェレス”:「……………………」
樋浦彼方:「……うん」
樋浦彼方:「やっぱりそれは、店長を誘おう?」
樋浦彼方:すごい行きたそうだし。
穂積 月夜:「……最初は、リーダーを誘うつもりだったんですけどね? 足がかりをーって言われたら、こうするしか、ないじゃないですか……」
“マスター・メフィストフェレス”:「いや――なんか――その、冷静に考えて? それ《欲望》になるかな??? ごめん、ちょっとノイマンの僕もわかんないな???」
樋浦彼方:「生業としては、“工作員”がそんな場にいったら全員操舵するのがアタリマエなんですが……」
“マスター・メフィストフェレス”:そうだこいつスイーツ脳だった。忘却の彼方に置き去りにされていた彼女の《欲望》を思い出していた。主人は辛かった。
穂積 月夜:「《欲望》の足がかりっていうよりは、ちょっとした気分転換のつもりだったんですけどね」
穂積 月夜:「何をするにしても、まずは生きる目的を見つけるのが先ですし?」
穂積 月夜:「そのきっかけにでもならないかなー……なんて」
樋浦彼方:はあ……ながぁい溜息ついて。
樋浦彼方:「はいはいいきますいかせていただきます。人数合わせじゃなくて目付役かねていかせていただきます」
樋浦彼方:「なんなら女性になりかわっていかせていただきます。――そうしたら店長気兼ねないでしょう」
穂積 月夜:「なんでお目付け役なんですかー、今回はちゃんとできます! そういう気がするんです!」
“マスター・メフィストフェレス”:声なき《声》が一瞬壁に亀裂を走らせた。本棚には届かぬよう丁重に避けた。その余裕はギリギリあった。
樋浦彼方:「あのね」
樋浦彼方:「相手方に俺みたいな工作員が混じってないっていえないだろう? あっという間に洗脳だよ、その恋愛脳逆手に取れば」
穂積 月夜:「うーん、なんて言えばいいんですかね……そういう人って、立ち振る舞いだとかなんとかで、意外とわかるんですよ?」
樋浦彼方:すごく信用されてない目。
穂積 月夜:「戦いなれてるなら歩き方と筋肉の付き方で判断できますし、話術にかけるタイプなら話し方とか話してるときの身振りとか……」
樋浦彼方:「俺には?」

 エグザイルならなおさらだが、歩き方や筋肉の付き方などいかようにでも変えられる。
 身振りや話し方といった癖もまた、訓練や意識次第で変わっていく。
 

穂積 月夜:「樋浦さんはそもそもの雰囲気がアレなので論外です!」
樋浦彼方:「ほめことばをありがとう」再度ため息が出る。
穂積 月夜:「それにしても、うーん……姿を変えるエフェクト、私も練習しとこうかな……」
“マスター・メフィストフェレス”:「じゃあ、君にとって樋浦君とはどういう存在かね。……やはりこの場には不要と思うかい?」
穂積 月夜:「え、必要ですよ? 急に何言ってるんですかリーダー」
穂積 月夜:何を当然のことを、といった風にリーダーを見やる。
“マスター・メフィストフェレス”:「ああ、それはよくよく、わかるさ。わかってるさ。だから、私では与えられないものを君が持っている」
穂積 月夜:「私が与えられるもの…………」
穂積 月夜:そこまで言って停止する。 おそらく、皆目見当もつかないといった所だろう

穂積 月夜:「……なんですか、それ」
穂積 月夜:数分間の沈黙の後に、おずおずと口火を切る。
穂積 月夜:仮に漫画的表現をするならば、彼女の頭からは黒煙が上がっているだろう
“マスター・メフィストフェレス”:「その答えが出せないようであれば、そうだな……君の《欲望》の拠り所をも虱潰しに壊して、更地にしてやろうか」
“マスター・メフィストフェレス”:「君もおなじ《死人》になるか。連帯責任という形に変えても、かまわないのだよ」

穂積 月夜:「なんでそうなるんですかー!?」

 マスターがそういった瞬間、今までなんで組み伏せられてたのか? といいたくなるくらいの速度で身体軟化させ、抜け出す。
 体制を整え。穂積とマスターの合間に立つ。

樋浦彼方:目が据わっている。  

“マスター・メフィストフェレス”:「どうした“終わった男”。君はそこで寝ていればいいだろう」
樋浦彼方:「……」
“マスター・メフィストフェレス”:「居る必要性を失ったなら、もはや君も私がいくら言ったとて立ち去るかもしれない。彼女が君を必要としているのは、どうにも彼女自身真の意味を理解していないようだ。……それでは何の意味もない。わざわざ2人共残しておく必要はあるのかね」
樋浦彼方:「俺は」
樋浦彼方:「”防衛屋(ディフェンダー)”ですよ」
“マスター・メフィストフェレス”:「ならば何を所望する? 何を欲する? お前は《死人》だ。口も体も動かぬ。悪意の一抹すら投げ捨てたただの《死人》だろう?」
樋浦彼方:「非常にざんねんなことながら」
樋浦彼方:「《欲望》喪ってなおいまだ躰は動くし口も利ける。いのちも躰も惜しいなぞとはつゆとも思っていないが」
樋浦彼方:「使えるものは使えるだけ利用する。それこそ俺自身のこの躰も能力も」
穂積 月夜:「…………」
穂積 月夜:呆けたように二人を見ている反面、その両手は外骨格で覆われており、既に臨戦態勢にあるようだ

“マスター・メフィストフェレス”:「さて、それは何のためだ。誰を護る。何のためにだ。動ける? 欲望もないくせ、立派な“口”を利けたものだな」
樋浦彼方:「悪霊同士の同士討ちの回避」
樋浦彼方:「……同士討ちすれば、その分不利だ」
“マスター・メフィストフェレス”:「お前は《死人》であるというのに《悪霊》を遮るという。愉快だな、いや――」
“マスター・メフィストフェレス”:喉を鳴らす。眼鏡をかけ直す仕草。
“マスター・メフィストフェレス”:「お前が今一度《悪霊》になれるというのなら、それも出来ようものだ」


 不利なぞしったことではない。こうしてみすみす逃した上に、彼女の不信を得てしまうというのなら。――この《小座》には不要だろう。
 人員の信頼こそが、この管理セルにとっての一番の要点だ。


樋浦彼方:「さえぎりますよ」
樋浦彼方:「生きた駒同士が打ち合って破損するよりも」
樋浦彼方:「死んだ駒を破損させた方が余程に、盤面としても良いですからね」
樋浦彼方:その後”生きた駒”が再度狙われるところまでは与り知れない。ただその手数・時間分は少なくとも、生きた駒は無事で済む。
穂積 月夜:「……」
穂積 月夜:「樋浦さんだって、生きてるじゃないですか」
穂積 月夜:「言いましたよね? 私、“終わった男”っていうコードネームが嫌いって」
穂積 月夜:「終わってるならそれは屍人と同じです。 死体は動いたり、喋ったりなんかしないんです」
穂積 月夜:「……なら、今ここにいる樋浦さんは、なんなんですか?」
穂積 月夜:「樋浦さんは今! 動いて! 喋って! ここに居ます! それなのに、自分は死んでるって言い張るんですか!?」
穂積 月夜:彼女なりに、思うことがあったのだろう。 言葉を発するごとに、その語気は強まっていた
“マスター・メフィストフェレス”: 「“駒になる”――それこそが彼の《望み》じゃ、ないのかね」。と鼻を鳴らす音。何かを嗅ぎ取る様相。視線を穂積へ向ける。
穂積 月夜:「だとしたら、私は認めません。 そんなつまらない人が樋浦さんだなんて、思いたくないです」
“マスター・メフィストフェレス”:「……ふー。疲れるねえ。あまりこう、だな。的確に指摘するとだね」こわばった顔つきが緩む。
“マスター・メフィストフェレス”:「君は彼を頼るべきだ。欲するべきだ。さすれば、彼も君を欲するやもしれん。……そう考えているが?」

 先程は相当剣呑な表情でまくし立てたが、要はそういうことだ。
 駒であることは、主人にしてみれば全てそう。全員が手駒だ。そして、大事な存在である。信頼すべき、されるべき。そうあって欲しいと願っている。

 《悪霊》であればヒトではない。語弊や誤解が生じるかもしれないが、ここはFH。
 ――自ずと欲望の基盤を成すならば、穂積自身が必要な駒と考えていた。

穂積 月夜:リーダーの急な雰囲気の変化に、目を丸くする
穂積 月夜:常に目を閉じているのに”目を丸くする”というのは適切ではないように思えるが、そこはそれ
穂積 月夜:「えーとつまり……『ヘイ、ユーたち付き合っちゃいなよ!』と、そういうことで?」
穂積 月夜:明らかに意図を掴んでいないような、そんな返答を返していた

“マスター・メフィストフェレス”:「それは愛のように自由に解釈したまえ。君の《欲望》のままにだ。家族愛、親愛――一口に私が決めつけて良いものではない」
穂積 月夜:「うーん、樋浦さんに関しては恋愛感情って全然なんですよねぇ……」
穂積 月夜:「時々、私に兄弟がいたらこういう感じなのかなーって思うことはありますけど」
樋浦彼方:「むしろそういうたぐいの代物はマスターに持った方が万倍も幸せですよ」
穂積 月夜:「リーダーは何と言いますか……お父さん系?」
“マスター・メフィストフェレス”:「らしいぞ樋浦君。家族というのは代えのきかないものだろう。ましてや彼女は――」

 そこから先は暗黙の了解。彼女の出自にかかってくる。
 手駒である以上は何をどう思われようと、 “認められる”こと自体に得心を得る。ただ、恋愛感情はごめんだと肩を竦めて視線を宙に投げた。


樋浦彼方:「知ってますよ。というかそこらを知らないと思ってるならさすがに見くびりすぎですよ」
樋浦彼方:「ゆえに己が欲望を成就するためにも動きやすいためにも立ち位置取ってましたからね」

 近しい悪霊の《好意》もとれんと何が工作員か、その位のひどいいいざま。
 

穂積 月夜:「うわー樋浦さんひどい、幻滅しました。 これからは『お兄さん』って呼びます」
樋浦彼方:「たぶん血縁じゃないと思うんだけど……」
“マスター・メフィストフェレス”:「血の繋がりなど、戯言にも似ている」――主人の言葉には、何ゆえか確信めいていた。
穂積 月夜:「血縁かどうか、なんて、そんなの些細なことですよ」
穂積 月夜:「それに……血縁者のほうが、きっとろくでもない」
穂積 月夜:消え入るような呟きには、感情など籠ってはいなかった
“マスター・メフィストフェレス”:「まあ、そういったわけで彼女は君を“家族として愛している”ように伺えるが。その想いに応える心算は」
穂積 月夜:「それに私の血縁者って、きっと禄でもない人たちですから……顔も名前も、知りたくもないです」
穂積 月夜:徐々に消え入るような口調で述べた後、
穂積 月夜:「そういう訳ですから、私はこのセルの人達は皆好きですよ。なんというか、家族ってこんな感じなのかなーって」
穂積 月夜:続く言葉は、明るい口調であった。

樋浦彼方:「……」

 いくらかに思うところはある。
 組むということで調べたし、どういう腹積もりだったか経緯だったかも知ってはいる。
 この盤面でそれを開示することでもないわけだが、そうじゃなくて。


樋浦彼方:「で、その“家族”を――」
樋浦彼方:続く言葉は飲み込んだ。
穂積 月夜:「家族の間でも、そういうのは必要じゃないんですか? ほら、非行を働いた息子を叱る父親、みたいな?」
穂積 月夜:今回の件は完全にそういったレベルではないのだが、彼女にとってはその程度の認識なのだろう

GM:<マスターメフィストなんかむちゃふりきてるぞー
“マスター・メフィストフェレス”:「……これが欲望の足掛かりになるのかねえ。今ひとつ、」そうだ。今ひとつ。
穂積 月夜:「うーん、イマイチなのは私もわかってるんですけど……」
樋浦彼方:「俺に、《人間》じみた、愛情や関係は、あんまり期待しないほうがいい」
樋浦彼方:「それは島に大蠍がきたときも、ついさっき、ここ《調和の小座》でも、いったこと」
樋浦彼方:「……」
樋浦彼方:「FHは、《悪霊》と呼びならわされる」
樋浦彼方:「悪霊とは異教の神々、祟りをなし災いを呼ぶもの、堕落した御使いさまざまあるけれど」
樋浦彼方:「いまの表社会・実権を握るものたちにしてみれば制御できない悪、」
樋浦彼方:「もしくは反逆のそしりを受けて汚れ役を受けおおうともなお己が内にある欲望を、願いを、意思と意志を曲げぬもの」
樋浦彼方:「FHとはそういった、欲望の殉教者の集まりだ。その欲望を以てして、ひとを超え、神悪魔と呼びならわされる力を行使し、願いを叶える」

樋浦彼方:「もちろん、そんなものがなくても、力を使えるものはごまんといる」
樋浦彼方:「UGNなんざわかりやすい例だし、ツクヨも本質たる闘争は強いが欲望が強いかと問われたら首をかしげる。少なくとも本質対比でいってしまえば、だけれどね」
“マスター・メフィストフェレス”:「ま、そういうことだ。だから君には“自覚”が足りていない」と穂積を一蹴だにした。「もう少し《欲望(じぶん)》を大事にしなさい」
穂積 月夜:「えー、私ってそんなに無欲ですか……?」<リーダー
樋浦彼方:「それでも」
樋浦彼方:「それであっても、自己の本質やするべき役割、それに悪魔の力――シンドロームがあっていれば対して問題も出ないんだろう」
樋浦彼方:「……」
樋浦彼方:「俺は、《悪霊》としては、マスターの言を借りれば悪魔としては、世事に強くも高くもない」
樋浦彼方:「姿かたちを変えられても、対人工作・諜報員としてなら、ソラリスかノイマンには遠く及ばない」
樋浦彼方:「外部からの情報収集なら、エンジェルハイロウやハヌマーン、オルクスで近づかないで収集したほうが段違いで上だ」

樋浦彼方:「殲滅で言えば、マスター・メフィストフェレスのように大せん滅を齎せるハヌマーンのが余ほど上だし、局所なら大蠍のようにブラックドックであるほうが諸対応が効く」
樋浦彼方:「悪魔の力、オーヴァードの能力の段では、無駄をそぎ突き詰める領域にいけば――素養が足りない足手まといだ」
樋浦彼方:「だから《欲望》がいる。ほかの誰よりなによりも。足りないならば十全に引き出すしかない、欲望は悪魔の力の鍵だから」
樋浦彼方:「そして現実」
樋浦彼方:「《欲望》弱まったその時に、犯していけないミスを犯して」
樋浦彼方:「あまつさえ”防衛屋(ディフェンダー)”が倒れるわ工作員が屍をさらすわ、立ち消えてれば三文芝居しか打てないわ」

樋浦彼方:「――そんな使えぬ駒、残していいものじゃない弱点にしかならない。そんなものただの生ける屍だ、悪霊じゃあない」
穂積 月夜:「……」

 穂積月夜には学がない。それに加え、人生経験というものが、同年代の者に比べれば皆無と言って過言ではないのである。
 黙って話を聞いてはいたが、その内容は半分も理解できてはいない。
 が、それでも――――


樋浦彼方:「別に、しにたいわけじゃない。ただ、“即刻死ななければいけない”とは思ってる」
樋浦彼方:「欲望立ち消えのクズ駒なぞ、一歩出た瞬間セルも周囲もどこまで悪化するか分かったものじゃないからな」
“マスター・メフィストフェレス”:「何事も適材適所だ。私が1人で戦闘を行うには、ただの木偶人間のようにね」
“マスター・メフィストフェレス”:「我々は《レギオン》。欲望を基幹とする《悪霊》の集い。FHとは悪霊/悪魔にとっての聖域」
“マスター・メフィストフェレス”:「君が君足りうるのも、《欲望》あってこそ」
“マスター・メフィストフェレス”:「彼が今こうして瀬戸際にいるのも、《欲望》を失ってこそ」

 それは再三だろう、と告げて。

“マスター・メフィストフェレス”:「その上で私はどう判断するべきなのかは、彼も私も知っている。ただ、君はどうしたいのかが見えないんだよ」
“マスター・メフィストフェレス”:やおら、メガネを掛け直した。

樋浦彼方:「……マスターからの処分のが、俺が自殺するよりゴミ散らかさないで済むし後々の諸動もラクとは判断したんですけどね……」
穂積 月夜:「実力も中途半端、欲望もない自分に生きる価値はない。 そう思ってるんですね?」
樋浦彼方:「あっさりいえばそういうこと」
穂積 月夜:「……私、今正直言ってすっごく怒ってます。 それこそ、樋浦さんをうっかり殺したくなる位に」
穂積 月夜:「でも、今ここで殺し合いをする気は全くないんです」
穂積 月夜:「前々から樋浦さんと戦いたいとは思ってたんですけどね……でも、今やったら、樋浦さんは絶対手を抜くじゃないですか」
樋浦彼方:「手を抜く以前に」
樋浦彼方:「たぶんろくにエフェクトが、使えない」
穂積 月夜:「そうやって簡単に決着が着いちゃったら駄目なんです。 そんなの楽しくないし、虚しいだけです」
穂積 月夜:「”戦い”っていうのは、お互いに死が見えているから、お互いに退けない理由があってこそ楽しいんです」
穂積 月夜:「ですから、生きることを放棄した人に振る剣なんてありません」
穂積 月夜:「だから私は――」
穂積 月夜:「――樋浦さんが”悪霊”になるまで、心の底から死にたくないと思えるようになるまで、死なせません」
穂積 月夜:「自殺だろうと、自己犠牲だろうと許しません。絶対です」
“マスター・メフィストフェレス”:「ふむ。情熱的な告白だ。ああ、いやそういう意味ではないがね――」
樋浦彼方:目を手で覆います。
樋浦彼方:「……何つー、無茶を……」
“マスター・メフィストフェレス”:「言っておくが。欲望を失ったから即座に切り捨てるとは私も言っていないよ」
“マスター・メフィストフェレス”:「……処分? そんなことすれば、私は穂積君に恨みでもされ、閉店になりかねん」

穂積 月夜:「恨みはしませんよ? ただただ残念に、すっごーく残念には思いますけど」
樋浦彼方:「ツクヨ以外のセルメンバーと管理してるセル処々はどうするんですか、マスター……」
“マスター・メフィストフェレス”:「自害もねえ。同じく、私が不信を買うだけだ。ああ損、まさしく損」
“マスター・メフィストフェレス”:「こんな算数ぐらいはわかるだろう。管理者が1人どころではなく2人も管理不十分となれば、セルの面子が丸つぶれさ」

 すごく残念、という想いがどう変化するのが懸念材料でしかない。彼女はよくても、他の《悪霊》達はどう考えるか。
 また、ディアボロスに嫌味の二つや十つでも言われればそれこそ失墜もするもの。


GM:嫌味の数多いな!?
穂積 月夜:「今の樋浦さんは無茶でもしないと駄目です。吹けば飛んでいく位に中身スカスカなんですから」
“マスター・メフィストフェレス”:「それにねえ、大体君にはストッパーがいないと困るんだよ。君が困らなくても困るのは最終的に私だ」
“マスター・メフィストフェレス”:「結構、私は私の保身で手一杯さ。そのための言い訳を連ねているに過ぎない」

“マスター・メフィストフェレス”:「言っただろう“適材適所”“信頼”と。戦闘員に、防衛兼便利屋」
“マスター・メフィストフェレス”:「セル構成員の君達への信頼も厚い」
“マスター・メフィストフェレス”:「私は君達を《駒》と呼んでいるが、盤上において駒が揃わなければ、欠ければ、不利になる」
“マスター・メフィストフェレス”:「捨て駒というのは、本当の本当に“最後”となった時に切りたいと考えている」
“マスター・メフィストフェレス”:「――信頼がなければ、《欲望》なくして易易と引き留めようなんざ思わない。我々のセルは、そうして成り立たせた」

 ……まあ、事前に裏をかかれたのは憤慨ものだけど。と小声で付け足した。

樋浦彼方:《欲望》がために手段選ばないのは当然だと思いますけどね、と、ぽそりつぶやいた
“マスター・メフィストフェレス”:「しかし駒同士とて意思がある。欲がある」
“マスター・メフィストフェレス”:「欲とは尽きぬもの。欲とは撒いた雑草のように放っておけば生えてくる。大なり小なりな……ふう」

樋浦彼方:「……~~、わかった、わかったよ!!」
樋浦彼方:その場で座り込みます。
樋浦彼方:「あー……まさかバディがここまで無茶しいとは……いや知ってたし曲げないのもわかってるけれど……」
樋浦彼方:頭を抱えて、残る手でツクヨちゃんのほうに手を掲げる。
樋浦彼方:「……屍人の俺が、《悪霊》たればいいんだろ。なら、《欲望》の種火をくれ」
樋浦彼方:「そんな難しくなくていい、ただ俺が揺らがせづらい種火にしてほしい」
穂積 月夜:うーん、と顎に軽く手を当て思案する
穂積 月夜:「そうですね……じゃあ、家族になりましょう!」
樋浦彼方:「……先に確認だけしますけれど」
樋浦彼方:「俗な男女的な、キミがよく騒いでいるあの系列を求めていないとの判断してますが、大丈夫ですよね……?」
穂積 月夜:「えっ? やですねぇ、恋愛感情もないのにそんな突飛な提案なんてしないですよー!」
“マスター・メフィストフェレス”:流石に疲れてきたのか、壁に背を預けた。まさかここまで説得に時間がかかろうものとは――まあ、致し方なし。
穂積 月夜:「ほら、『守るものがあれば人は強くなる』なんて、本とかそういうのだとよくあるじゃないですか」
穂積 月夜:「そういうのってだいたい、恋人とか家族のケースが多いですし?」
穂積 月夜:「守るものができれば樋浦さんの”欲望”のキッカケになるかなーって……どうですか?」
樋浦彼方:「……Thanks」
樋浦彼方:「それでなんとかしてみるよ。とはいえど立ち消え直後、なじむのにしばらくかかるだろうから」
樋浦彼方:「とうざはだいぶ足手まといとは思いますが、ね」
樋浦彼方:「で、ですね。マスター・メフィストフェレス」
樋浦彼方:「……俺の処分は、どうなりますか?」

 にこり。と普段の嫋やかな笑顔。それが転調する。

“マスター・メフィストフェレス”:「いやあ君が十二分に想われていたのは伝わったさ。君がやっと降参してくれたのも助かったさ。わかるだろ? なあ?」
“マスター・メフィストフェレス”:「私のことを考えてくれだなんて言わないよ。君 達 の 問 題 だ し ね ? 後 処 理 す る の は 僕 だ け ど ね ?」
“マスター・メフィストフェレス”:「そうさ。“終わり”はまだ早い。“終わる”にはあまりにも君が未練を残していた」
“マスター・メフィストフェレス”:「穂積君が殴りかかろうもんならどうしようかとハラハラしてたし、これからの《巡礼》を考えると僕も身につまされる想いだよ」
“マスター・メフィストフェレス”:「この想いは誰も共有してくれないだろうけど、良かったねえ樋浦君。こんなにも君のことを案じてくれて」
“マスター・メフィストフェレス”:「僕も勿論案じてる。うん。とってもだ。そのように“しまい”にしてくれ」


 哄笑、口元に犬歯が垣間見えた。
 いささか大仰な笑いは、聞くに久々だろう。悪魔は額に手を当てて嗤っていた。


樋浦彼方:うっすらと笑っている。
穂積 月夜:にっこりと笑っている
樋浦彼方:「大蠍がかかってくるようならカバーリングしてましたけどね、その程度はできますから」
樋浦彼方:「散らかすところまではどうしようもないですが、そこは貴方がなんとでもできるでしょう?」

“マスター・メフィストフェレス”:「まあ私が始末するのが基本だし、そしたら君がやりたがるかもだし」
“マスター・メフィストフェレス”:へらっと普段の顔に戻ったあの哄笑の所作はまるで彼方のように置いてきた。

穂積 月夜:「え、なんでリーダーが殴られる話になってたんですか?」
穂積 月夜:「樋浦さんが本気で戦うんだったらやりたかったのは確かですけど……見ての通りですし?」
穂積 月夜:「まあ、そういうことですから……これからよろしくおねがいしますね、”お兄さん”?」
樋浦彼方:「よろしく、”ツクヨ”」
樋浦彼方:「……あ」
樋浦彼方:あちゃって顔をします。
樋浦彼方:「……悪い呼び方ください、名前で呼ぶのは問題ある上に兄が“妹”って汎用の言い方使えない……」
穂積 月夜:「じゃあまずは、そこを考える所から、ですね!」
“マスター・メフィストフェレス”:「――樋浦君、確認するけど君何歳だっけ」
樋浦彼方:「肉体年齢なら26ですよ」
樋浦彼方:「なのでお兄さんとか言われるのは、たぶんはたから見たらいかがわしいプレイに見られかねないですよ」
“マスター・メフィストフェレス”:「うん。あのね、知ってると思うけど。私は25歳なんだ。パパって呼ばれるんだね。…………厭だよ!!」
“マスター・メフィストフェレス”:すげえ別の意味に聞こえるから勘弁してくださいとのこと。
樋浦彼方:「よかったじゃないですか、モテて」
樋浦彼方:分ったうえでいってるあたりがタチ悪い。
穂積 月夜:「お兄さんじゃダメですか? だったら、うーん……お兄ちゃん、兄さん、兄様、兄上、兄者……」
“マスター・メフィストフェレス”:「……はあ。どっちにしろこれは守秘義務を徹底しないと“デコハゲ”の所に伝聞するな……」
“マスター・メフィストフェレス”:「おい、“ジ・エンド”。君に最初の任務だ。頭を下げて『黙ってくれ』と私に付き合え。漏れたら吊るし上げるのを手伝え」

樋浦彼方:「Yes Sir」
“マスター・メフィストフェレス”:居住まいを正した樋浦への“任務”がこれとは、矮小なものである。《欲望》を喪ったゆえに、この程度が今は精々だろうから。
“マスター・メフィストフェレス”:「まさかレディに頭を下げさせる訳にもいかないし、そうだな。“恐怖の大蠍”。……合コンに私を呼んでくれ……」
“マスター・メフィストフェレス”:何か切実な《声》色がする。

穂積 月夜:「そうですねぇ……義理とはいえ兄を合コンに連れてくるのは、なんだか残念な人に思われちゃうかもですし……」
穂積 月夜:そんなことを言っている時点ですでに残念を通り越しているのだが

樋浦彼方:「んー、というか」
樋浦彼方:「先だっての依頼の人数合わせ? 合コンに顔を出すとして」
樋浦彼方:「まさか始終”血縁じゃないけど兄なんです、おにーさんなんです”なんていった日には」
樋浦彼方:「ざんねん通り越して、そっこー袖にしてるのと変わらないしそれ以上に見つからないよ? いいひと、それだけで」
樋浦彼方:「あ、マスターを『パパ』といっても一緒ね。援助交際してるあばずれに見られたいならともかくだけどさ」
穂積 月夜:「うう、そうですよねぇ……というか」
穂積 月夜:「そもそも合コンに誘った理由が樋浦さんのキッカケづくりなんですから、もう意味ないじゃないですか!?」
樋浦彼方:「あ、なら俺は関係なくなるなら気楽だな。それならよかった」
樋浦彼方:たぶんマスターが全くよくはない。
穂積 月夜:「というわけでリーダー、合コン行きましょう!」
“マスター・メフィストフェレス”:「というこここはセルだ! そこまで私は“愛”を求めていない! そんな形の愛ではなく、信頼でいい! 十分だ!」

 穂積は確かにタイプだ。外面だけでいうなら。
 ただ、部下とのそんな噂が持たれても最悪である。


穂積 月夜:「え、リーダーは確かにお父さんっぽいところはありますけど、リーダーはリーダーですよ?」
“マスター・メフィストフェレス”:「あ、うん。樋浦君は絶対来なくていいよ」
“マスター・メフィストフェレス”:そこは煉獄の底から這うように念押しした。暖簾に腕押しとは言ったものだ。

樋浦彼方:「それはありがたい。ではマスター・メフィストフェレス、その子のお目付けがんばってください」
樋浦彼方:目付をするつもりがなくても、同行するならつまりは結局そうなるわけで。
“マスター・メフィストフェレス”:「……ぜえぜえ。わかったわかった。下手打とうが軽くフォローぐらいは入れるさ。穂積君のタイプが居るならね」

 ――それにこの《悪魔》の前では真実は白日の下にさらされる。
 危うく危ない男に引っかかろうものなれば、横槍を入れるのも簡単だ。


“マスター・メフィストフェレス”:「あーなんか喋ったら喉乾いた。とりあえずコーヒーでも淹れてもらおうか」
穂積 月夜:ふっふっふ、と笑いながら携帯端末を操作している。どうやら人数の空きが埋まったと連絡を入れているようだ

 ――とにかくだ。これから《巡礼》が待っているのは《管理者》としての仕事。
 ここより先は二人三脚、ひとまず面倒は見るが相棒同士頑張ってくれよ、と主人は手を翻した。


穂積 月夜:「今回は、良い人が見つかると良いなぁ……」

 にんまりと笑いながらそう呟く彼女の表情は、20代前半にしてはいささか幼く見えた。おそらく精神的な未熟さが大いに残っているのだろう。
 その未熟さゆえに、今まで悪い男に何度も引っかかっているのだが。

 とはいえ不運なのは男の方である。最終的に後悔することになるのは、いつだって騙す側だったのだから



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 Ending Scene:Final
 Side:Jinri
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 事件からしばらく、日常に戻ってみると、慌ただしく日々は過ぎて、島にもクリスマスイブがやって来た。
 歴史と伝統の黒島天主堂、島中の信徒が集まり、盛大なミサが行われる。松笛はクリスチャンではないので、その様子を遠くから眺めていた。

 いつもなら、ちゃっかり炊き出しのおぜんざいをもらっていくの、だが。


松笛人理:「……」

 今年はなんとなく気が乗らず、きびすを返し、家路に就く。

 今ここに、「ぜんざいをもらう松笛」の可能性が、切り捨てられた。廃棄された可能性は、今もぴたりと背中についているだろう。

 だが、それは本当に「可能性」だろうか?
 ゼロではないが、松笛がここでそうしたことには、それぞれ意味や、理由がある。運命の剪定は、その瞬間ごとの分岐だけでは済まない。

 自分はただ、その表面をなぞるように、浅く広く、棄てられたものを集めて、ぶつけているだけ。なんともチンケなオーヴァードだ。

松笛人理:「……平和だなあ」

 ぽつり、そんな暢気な声が漏れる。
 あれからも海から変なレネゲイドビーイングがやって来たり、師匠がまた空から落ちてきたり、母上が異次元から再婚相手を引っ張ってこようとしたが、最終的に現在は平和だ。


 この松笛人理の日々は、波乱に満ちている。
 それでもなお、胸にひときわ強く焼き付いているのは、あのわずか一日の出来事。ひとえと名付けた、少女の姿をした、箱のこと。


松笛人理:「あの子もこれぐらい、平和にしていると、いいんだけどね……」
松笛人理:つぶやく言葉に力はない。


 盆栽、というものはやったことはないが。生きていくのは剪定に似ている、と松笛は思う。
 選んだ枝葉以外を切り捨てて、望みの形に木を育て、小さな世界を完結させるのだ。
 ……剪(き)られた枝葉はどこへいく?

 枯れて、腐って、土へ、風へ。それが巡り巡って自分の元へ戻るのは、何度生まれ変わった後か。
 だから。時折、自分が為しているのは、正しく還ろうとしている〝実現しなかった可能性〟を捕まえ、潰してることではないかと怖くなる。
 自分のレネゲイドに捕まらなければ、それぞれの〝後悔〟は、この世界に広がる因果の環を巡り続けたのではないか、と。

「考えすぎよ」と母は笑った。
「そのまま考え続けろ」と師は嗤った。

松笛人理:「……でも、逃げてたんだよなあ」
松笛人理:ぽつり、ぽつり。冷たい雨粒のように、自分の言葉が、自身の胸にしみてくる。


 彼女に出会った時、その正体に気づいた時、もしかしたらという思いがあった。これが、1つの答えではないかと。
 彼女の望みを知って、その思いを押し込めた。誠心誠意、何の混じりっ気もないなどと、まったくどの口が言ったものか。

松笛人理:(解放に成功した……したんだと、思うけど。それは結果オーライなのかね)

 あの箱に詰まっていたもの。後悔の果て、選択の痕、剪定された無数の可能性。叶わぬ願い、棄てられた希望、零れた想い。
 あれは。あの箱は。


 もしかしたら、いずれ自分が至る姿かもしれない、と。どことなく、そんな思いがあった。


 彼女が泣いていたから、助けようと思った。嘘じゃない。
 彼女が己の末路のように思えたから、なんとかしようと思った。善じゃない。

松笛人理:「やらぬ善よりやる偽善、とは言うけど、さ」

 改めて振り返れば、己も結局、欲望ばかりだ。
 こんなことで、あの、FHの彼を説得できたものだ。

 ごそり、久方ぶりにタバコを出して、火をつけず、口に咥える。
 ライターはあるが、なんとなく手の中で弄び。そのまま、あるき出した。


 ――。
 見覚えがある? ない? そんな、烏の濡れ羽色の長い髪の、女の子が通り過ぎる。


松笛人理:「……っ」

 ぽろ、と口の端から、タバコが落ちた。
 今のは、気のせいだろうか? いやいや、この松笛人理に限って、ただの〝偶然〟はありえない。


松笛人理:そっか、と最初は小さく。そっか、そっかと繰り返して。
松笛人理:「……そ~かぁ~」と、長く長く、息を吐き出し、破顔する。

松笛人理:「ははっ。なべて世は事も無し、か。いいね、うん、ちゃんとつながって、ちゃんと回ってるんだ、うんうん」

 一人、納得したように、べらべらと。
 傍から見ればちょっと、いやかなり、危ない人のようで。


松笛人理:「よーし! おぜんざい、もらっちゃおー!」

 くるっと踵を返して。
 〝彼女〟の姿を後にして、その選択肢を刈り込んで。

 松笛人理は、別の可能性(みらい)へ、進んだ。



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